コーディングモデルの選定は、ベンチマークの点数だけでは決まりません。1タスクあたりの費用と、実運用に耐える精度のバランスが問われるからです。
2026年7月、Datacurveが公開したDeepSWE v1.1の結果では、GPT-5.5がパス率67%・1タスクあたり7.23ドルで2位に入りました。1位のClaude Fable 5は70%ですが、1タスク21.63ドルと約3倍のコストがかかります。OffloopのYum氏は、この差を踏まえ「GPT-5.5が総合的に最も優れたコーディングモデル」と評価しています(参考)。
この記事では、DeepSWE v1.1の数値とOpenAI公式のベンチマークを突き合わせ、GPT-5.5を選ぶ判断軸を整理します。
この記事でわかること
- DeepSWEが既存ベンチマークと何が違うか
- GPT-5.5・Claude Fable 5・GLM-5.2の性能とコストの比較
- 推論努力度(reasoning effort)がスコアと費用に与える影響
- コーディングモデル選定で重視すべきポイント
DeepSWEは「長時間の実装力」を測るベンチマーク
DeepSWEは、Datacurveが2026年に公開したコーディングエージェント向けベンチマークです。113のオリジナルタスクを91のOSSリポジトリ・5言語(TypeScript、Go、Python、JavaScript、Rust)にまたいで用意し、既存のGitHub issueやPRを流用しない設計にしています。学習データへの汚染(コンテミネーション)を避けるため、タスクは一から作成されています(参考)。
各タスクは、エージェントがリポジトリに機能追加や修正を加え、隠しテストスイートで合否を判定する形式です。SWE-Bench Proと比べ、プロンプトは約半分の長さながら、参照解答は約5.5倍のコード量を要求します。挙動ベースの検証器で採点するため、実装の細部ではなくソフトウェアの動作を評価します。
全モデルはmini-swe-agentという共通ハーネス上で走らせ、エージェント基盤の差を揃えたうえでモデル性能を比較します。2026年7月1日付けのv1.1では、エージェントがコミットした差分だけを隔離コンテナで検証する方式に改訂され、再現性が高まりました(参考)。
トップ3の性能とコスト:Fable 5・GPT-5.5・GLM-5.2
https://deepswe.datacurve.ai/blog/deepswe-v1-1
DeepSWE v1.1のリーダーボード上位3モデルの数値は次のとおりです。
| モデル | パス率 | 1タスクあたりの費用 | 出力トークン | ステップ数 |
|---|---|---|---|---|
| Claude Fable 5 [max] | 70%±4% | $21.63 | 119k | 88 |
| GPT-5.5 [xhigh] | 67%±6% | $7.23 | 46k | 82 |
| GLM-5.2 [max] | 44%±2% | $3.92 | 78k | 129 |
Claude Fable 5はパス率でトップです。ただし1タスクあたりの費用は21.63ドルで、GPT-5.5の7.23ドルと比べ約3倍です。Yum氏の指摘どおり、パス率の差は3ポイントにとどまり、コストは約67%安くなります。
GLM-5.2は44%と3位グループですが、1タスク3.92ドルと最も安い価格帯にあります。Zhipu AI(智譜AI)のオープンウェイト系モデルで、DeepSWEではオープンウェイト最上位の44%を記録しています。API料金は入力1.40ドル・出力4.40ドル(100万トークンあたり)と、Fable 5の10ドル・50ドルより大幅に低い設定です(参考)。
参考までに、同じリーダーボードのGPT-5.4 [xhigh]は52%・5.65ドル、Claude Opus 4.8 [max]は59%・13.22ドルです。GPT-5.5は前モデルより15ポイント高いパス率を、約1.3倍のコストで達成しています。
GPT-5.5の位置づけ:OpenAI公式ベンチマークとの関係
https://openai.com/index/introducing-gpt-5-5/
GPT-5.5は2026年4月23日にOpenAIが公開したフロンティアモデルです。エージェント型コーディングに最適化され、APIでは入力5ドル・出力30ドル(100万トークンあたり)で提供されます。Batch・Flex料金は標準の半額です(参考)。
OpenAI公式の評価では、Terminal-Bench 2.0(複雑なコマンドライン作業のベンチマーク)で82.7%、SWE-Bench Proで58.6%を記録しています。社内評価のExpert-SWEでもGPT-5.4を上回り、「最も強力なエージェント型コーディングモデル」と位置づけられています。
DeepSWEの結果は、OpenAI公式の主張を第三者ベンチマークで裏付ける形になります。ただしDeepSWEではClaude Fable 5がわずかに上回っており、SWE-Bench ProでClaude Opus 4.7が64.3%とGPT-5.5の58.6%を上回っている点も事実です。ベンチマークごとに順位が入れ替わるため、自社のタスク種別に合わせた検証が欠かせません。
出力トークン効率がコスト差を生む
DeepSWEの数値で注目すべきは、出力トークン量の差です。GPT-5.5は1タスクあたり46kトークンで67%のパス率を達成します。Claude Fable 5は119kトークンで70%、Claude Opus 4.8は135kトークンで59%です。
GPT-5.5は少ないトークンで高いパス率を出すため、出力単価が30ドル(100万トークン)と高くても、タスク単位の総コストは抑えられます。OpenAIも「GPT-5.5はGPT-5.4よりトークン効率が高く、同じCodexタスクをより少ないトークンで完了する」と説明しています(参考)。
一方、Claude Fable 5は推論の深さと引き換えにトークン消費が大きく、1タスク21.63ドルに達します。v1.1の評価中、Fable 5の2,260試行のうち73件は米国政府の指令によりアクセス停止で未完了となりましたが、完了分でパス率は算出されています(参考)。
推論努力度でスコアと費用は大きく変わる
DeepSWEではモデルごとに推論努力度(reasoning effort)を変えて計測します。GPT-5.5の[xhigh]設定が67%・7.23ドルですが、[medium]設定では54%にとどまります。v1.0からv1.1への改訂で、GPT-5.5 [xhigh]は70%から67%へ3ポイント低下しましたが、上位の順位は維持されています。
OpenAI APIではreasoning.effortパラメータでlow・medium・high・xhighを指定できます。複雑なエージェント作業ではhighやxhighが有効ですが、コストとレイテンシも比例して増えます。本番環境では、タスクの難易度に応じて努力度を切り替える運用が現実的です(参考)。
コーディングモデル選定の判断軸
DeepSWEの結果から、用途別の選び方を整理します。
最高精度を優先する場合はClaude Fable 5が有力です。70%のパス率は現時点のトップで、LMArenaのWebDevリーダーボードでも1位に位置づけられています(参考)。ただし1タスク21.63ドルと、大量のエージェントタスクを回す運用では費用負担が大きくなります。
性能とコストのバランスを重視する場合はGPT-5.5が有力です。Fable 5に3ポイント差の67%で、コストは約3分の1です。出力トークン効率も高く、エージェントパイプラインの総コストを抑えやすい設計です。
コスト最優先でオープンウェイトを使う場合はGLM-5.2が選択肢になります。44%とフロンティアモデルより低いものの、1タスク3.92ドルと最安クラスです。自前ホストやZhipu AIのAPI経由で、推論コストを大幅に削減できます。
いずれの場合も、DeepSWEの113タスク全体を1回走らせるとGPT-5.5 [xhigh]で約817ドル(7.23ドル×113)かかります。予算が限られるチームは、GoやRustなど難易度の高いカテゴリから20〜30タスクをサンプリングして評価する方法が現実的です(参考)。
ベンチマーク選びがモデル選びの前提になる
DeepSWEが注目を集める背景には、SWE-Bench Proなど既存ベンチマークの飽和があります。上位モデルが狭いスコア帯に集中し、信頼区間が重なるため、実力差が見えにくくなっていました。DeepSWEは長時間・大規模な実装タスクでモデルを分離し、GPT-5.5とClaude Fable 5の間に約16ポイントの差が開く場面もあります。
一方、ベンチマークの設計次第で順位は変わります。SWE-Bench ProではClaude系がGPT-5.5を上回るケースもあり、DeepSWEでは逆転します。自社のコードベースやタスク種別に近いベンチマークで検証し、パス率と1タスクコストの両方を見ることが、2026年のコーディングモデル選定の基本になります。