世界最大級のテック企業の一つが、生成AIを「一部の部署だけの実験」から「全社の基盤」へ切り替えました。

Samsung Electronicsは2026年6月、OpenAIのChatGPT EnterpriseとCodexを従業員向けに本格展開します。韓国の全従業員に加え、スマートフォンや家電を担うDevice eXperience(DX)部門の海外拠点も対象です。OpenAIはこの規模を「これまでで最大級の企業向け導入の一つ」と位置づけています。

この記事でわかること

  • どの部門・地域の従業員がChatGPT EnterpriseとCodexを使えるのか
  • 技術職と非技術職それぞれで想定される活用シーン
  • SamsungとOpenAIの関係が半導体供給から業務変革へ広がる意味

https://openai.com/index/samsung-electronics-chatgpt-codex-deployment/

何が変わったのか

Samsung Electronicsは、社内の幅広い業務でChatGPT EnterpriseとCodexの利用を開始します。対象は韓国内の全従業員と、DX部門に所属する全世界の従業員です。DX部門はGalaxyスマートフォン、テレビ、家電、モバイルネットワークなど消費者向け製品を一手に担う事業部門です。

活用範囲は研究開発、製造、マーケティング、ソフトウェア開発、管理部門など多岐にわたります。OpenAIの発表によれば、SamsungはAIを特定チーム向けの補助ツールではなく、従業員の働き方とイノベーションの基盤として位置づけています。

なぜ今、全社展開なのか

SamsungとOpenAIの協業は、もともとAIインフラの半導体供給から始まっています。SamsungはOpenAIの次世代AI基盤に必要な先端メモリ半導体の供給を担っており、2025年10月には両社が覚書を交わしたと報じられています(参考)。

今回の契約で、両社の関係はハードウェア供給にとどまらず、全社的なAI活用へと広がります。Samsung側は社内のセキュリティポリシーとガバナンスの枠組みの中でAIを運用する方針です。ChatGPT Enterpriseはデータ保護、アクセス管理、セキュリティ制御といった企業向け機能を備え、機密情報を扱う大企業でも社内ルールに沿って利用できる設計になっています。

過去には社外の生成AI利用を慎重に扱ってきた経緯もあります。2023年に社内ソースコードがChatGPTへ入力され情報漏えいが起きた事例を受け、外部AIの利用制限を強化したと報じられています(参考)。今回のEnterprise版導入は、セキュリティ要件を満たしたうえでの本格運用と読めます。

ChatGPT Enterpriseで担う業務

https://openai.com/chatgpt/enterprise/

ChatGPT Enterpriseは、企業向けのChatGPTプランです。一般向け版と比べ、データがモデル学習に使われない設計や、管理コンソールによる利用者制御が特徴です。

Samsungの従業員は、情報の検索・分析、社内文書の下書き、アイデア出し、データの解釈といった知識労働をChatGPTで効率化します。マーケティング企画のブレインストーミングや、市場データの整理といった非技術職の業務にも使う想定です。

Codexが開発以外にも広がる理由

https://openai.com/codex/

Codexはもともとソフトウェア開発を支援するAIコーディングツールとして知られています。コードの作成、レビュー、デバッグを開発チームが担う用途に加え、非技術職が社内ツールや簡易Webサイト、自動化ワークフローを構築する場面でも使われ始めています。

OpenAIによると、Codexの週間アクティブユーザーは世界で500万人を超えています。韓国では2026年2月1日以降、週間アクティブユーザーが約800%増加したと発表されています。大企業での導入が増える中、開発者以外の職種でも「アイデアを動くソフトウェアに変える」需要が広がっていることがうかがえます。

他社との違いはどこにあるのか

Samsungの導入が注目されるのは、規模と深度の両面にあります。単一部署のパイロットではなく、韓国全社とDX部門のグローバル展開という広さです。同時に、研究から製造、販売まで一気通貫でAIを組み込む深さも特徴です。

OpenAI Koreaのゼネラルマネージャー、Harrison Kim氏は「SamsungがAIを限定的なツールではなく、世界中の従業員の働き方とイノベーションの基盤として採用している点が特に重要だ」と述べています。OpenAIは従業員がアイデアを素早く実行し、複雑な課題を解き、新製品や新サービスを生み出す支援を続けるとしています。

韓国ではLG Electronics、Krafton、Toss、MUSINSAなどもChatGPT EnterpriseやCodexを導入しており、大企業による生成AIの本番運用が加速しています。Samsungの動きは、製造業とハードウェア企業がAIを「実験」から「日常業務」へ移す転換点として業界の指標になります。