AIに相談しても、メールの下書きや議事録の整理は結局自分の手作業になる——そんな不満を、TenexのJJ EnglertはClaude CoWorkで解消しています。彼は52分のデモで、CEOコーチ、5人のアドバイザリーボード、コンテンツパイプラインの3つを同じプロジェクト内に構築しました。チャットボットではなく、GmailやSlackに接続して実際に動く「実行する秘書」として使う方法です。
この記事でわかること
- Claude CoWorkが通常のチャットと何が違うか
- JJ Englertが52分で構築した3つの仕組みの中身
- プロジェクトフォルダとbrainファイルから始める具体的な手順
- 権限設定と人間の確認を残しながら自動化するポイント
https://claude.com/product/cowork
チャットの限界とCoworkの役割
多くの生成AIは、質問に答えて文章を返すところで止まります。AnthropicのClaude CoWorkは、Claude Codeと同じエージェント型アーキテクチャを、Claude DesktopアプリのGUIに載せた知識労働向けツールです。ローカルフォルダの読み書き、SlackやGoogle Driveなどのコネクター連携、複数ステップのタスク実行を一気通貫で行います。有料プラン(Pro、Maxなど)のデスクトップアプリから利用できます。
Anthropic自身も、マーケティングやデータチームがチャットではなくClaude Codeを使い始めた事例を背景にCoworkを開発したと説明しています。非エンジニアがターミナルなしで、成果物ベースの仕事をAIに任せるための製品です。
52分で作った3つの仕組み
2026年6月27日、@rewind02氏がXで紹介したJJ Englertのデモでは、Coworkを「AI chief of staff(AI最高補佐官)」として使う流れが示されています。How I AIポッドキャストの詳細解説と照合すると、3つの仕組みは次のように対応します。
CEOコーチ(thinking-partner skill)
意思決定の相談相手として使うスキルです。brainファイルに書いた役割、目標、判断基準を読み込んだうえで、経営判断の整理や選択肢の検討を支援します。毎回背景を説明し直す必要がありません。
5人のアドバイザリーボード(sub-advisory skill)
1つのスキルを呼び出すと、複数のサブエージェントがそれぞれ別人格で同じ資料をレビューします。JJ Englertの例では、ニュースレター向けに「AI builder」「AI executive」「AI interested people」の3視点を設定しています。PRDなら上司、エンジニアリングパートナー、顧客の3人格でフィードバックを返す使い方も紹介されています。上司の役割を調査して模擬フィードバックを返すエージェントを入れる発想も、ポッドキャストで言及されています。
コンテンツパイプライン(newsletter skill)
リサーチ、執筆、評価を段階的に回す多段スキルです。ニュースレター作成を題材に、調査から下書き、品質チェックまでを1つのワークフローとしてCowork内に組み込みます。メール執筆スキルで培った自分の文体を、コンテンツ制作にも再利用できます。
構築の起点はプロジェクトフォルダ
Coworkの「プロジェクト」は、PC上のフォルダをワークスペースとして接続する仕組みです。JJ EnglertはDaily Operating Systemという空フォルダを作り、Claude DesktopのProjectsタブからそのフォルダを読み込みました。
フォルダ内に置くbrain.md(またはbrainファイル)が設計の要です。ここに勤務先の役割、よく関わるチームメンバー、コミュニケーションスタイル、判断の優先順位をMarkdownで書きます。Coworkはタスク開始のたびにこのファイルを読み、ユーザーの文脈を即座に把握します。Anthropicの公式オンボーディングガイドでも、プロジェクトのInstructionsとフォルダ内ファイルを組み合わせて文脈を固定する方法が推奨されています。
プロジェクト作成時の初期プロンプト例は次のとおりです。
I'm gonna use this folder and operating system to help me navigate the day-to-day life of a busy professional. You're gonna help me with some superpowers by applying some AI magic to it all.
コネクターで「実行」を可能にする
Gmail、Slack、Google Calendar、Notionなどをコネクターで接続すると、Coworkはツール横断で情報を取得・操作します。JJ EnglertはGmailの送信済みメール(直近30日分)を分析させ、自分の文体に合ったメール執筆スキルを自動生成しました。100件近い実メールを学習素材にすると、汎用的なAI文体から大きく離れた出力になると彼は説明しています。
権限はコネクターごとに細かく設定できます。JJ Englertは「メールは下書きのみ、送信は禁止」というグローバル指示をプロジェクトに追加し、人間の確認を必須にしています。Anthropicも重要な操作の前に承認を求める設計と、フォルダ単位のアクセス制御を公式に説明しています。
アドバイザリーボードの作り方
サブアドバイザリースキルは、Cowork自身にスキル生成を依頼する形で作ります。JJ Englertが使ったプロンプトの骨子は次のとおりです。
I want you to build another skill, and this is gonna be a review agent. For this skill, you're gonna launch a series of subagents that have each their own persona.
タスクに応じて人格を変えます。マーケティングならICP(理想顧客像)ごと、プロダクトならステークホルダーごとに視点を分けます。各サブエージェントは独立したコンテキストで資料を読み、盲点を指摘します。ソロ創業者が一人で判断に偏る問題を、仮想チームのレビューで補う用途として、ポッドキャストでも評価されています。
スケジュールタスクで朝のブリーフィングを自動化
/scheduleコマンド、またはサイドバーのScheduledタブから定期タスクを設定できます。JJ Englertは平日7時30分にMorning Debriefを走らせ、Gmail、Slack、カレンダーを横断してその日の優先事項を整理させています。
I want you every single morning to look at my email, my Slack and my calendar, and check it to help organize a plan of action for the day.
Claude Desktopアプリが起動している間、タスクは自動実行され、結果ファイルがフォルダに保存されます。アプリを閉じていた場合は、次回起動時に実行されます。
同じ設計思想の別事例
Brian氏(Lawton Learns)もCowork上で複数のコーチをプラグインとして構築し、ヘッドコーチが各コーチの助言を統合して週間計画を提案する仕組みを公開しています。ビジネス文脈ではCFO、CMO、CTOなどの役割をコーチに置き換え、同じアーキテクチャで経営アドバイザリーボードを再現できると説明しています。JJ Englertのサブエージェント方式と、Brian氏のプラグイン方式は実装が異なりますが、「文脈ファイル+専門エージェント+スケジュール実行」という骨格は共通です。
導入時の注意点
Coworkはセッション間で記憶を保持しません。継続的な文脈はbrainファイルやプロジェクトInstructionsに書いておく必要があります。コネクターへのアクセス範囲は必要最小限にし、送信や削除など不可逆な操作は承認必須に留めるのが安全です。JJ Englertは「段階的な信頼(progressive trust)」と表現し、最初は読み取り専用から始め、精度を確認してから自動化範囲を広げることを推奨しています。
チャットでアイデアを練る段階から、Coworkで仕事を実行する段階へ移るとき、最初の投資はフォルダ設計とbrainファイルの整備です。52分のデモが示すのは、高度なコードではなく、文脈の構造化とスキルの積み上げで経営支援AIを実用レベルに持っていけるという点です。