中古サーバーとオープンモデルで、患者情報を院外に出さず病歴要約まで回せる構成が現場から報告されました。

この記事では、SCRC(@TT8N1st)が2026年6月28日に公開した院内オンプレLLMと電子カルテの接続事例を整理します。ハードウェア構成、MCPによるカルテ参照、生成タスクの全体像がわかります。

この記事でわかること

  • 中古DellサーバーとTesla P40 2枚で動かした構成
  • OpenDolphinをMCP経由で参照する接続方式
  • GPT-OSS-Swallow-120Bが担う病歴要約と紹介状下書き
  • 商用製品との違いと導入時の注意点

医療現場が求める「院内完結」とは

電子カルテには患者の診療記録や検査結果など、個人情報保護法の対象となるデータが蓄積されます。クラウド型の生成AIにそのまま送ると、情報漏洩リスクや院内規程との整合が課題になります。

OPTiMの「OPTiM AI ホスピタル」やNTTの「tsuzumi」など、電子カルテ連携型の院内LLMは商用製品として既に存在します。織田病院では退院時看護サマリー作成時間が54.2%削減された実績も報告されています。一方で、ライセンス費用やベンダー依存、導入期間のハードルは小規模施設にとって重くのしかかります。

SCRCの事例は、オープンソースの電子カルテとオープンモデルを組み合わせ、自前で院内完結の生成AI基盤を構築した点に特徴があります。製品パッケージではなく、施設側が部品を選んで積み上げるアプローチです。

公開されたシステム構成

https://x.com/TT8N1st/status/2071178666038706444

投稿で示されたハードウェアは次のとおりです。

  • サーバー:中古Dell XC740xd
  • メモリ:512GB
  • GPU:NVIDIA Tesla P40 ×2

Tesla P40は2016年発売のデータセンター向けGPUで、1枚あたり24GBのGDDR5メモリを搭載します。2枚合計で48GBのVRAMが使えます。Tensor Coreを持たないPascal世代のため、最新GPUと比べ推論速度は遅くなります。ただし中古市場では1枚数万円台で入手できることが多く、VRAM単価のコストパフォーマンスに優れます。

120B規模のMixture-of-Experts(MoE)モデルは、推論時に一部の専門家層だけを活性化するため、全パラメータを常時VRAMに載せる必要はありません。量子化版の利用やGPU 2枚への分散も選択肢になります。中古機器でも大規模日本語モデルの院内推論が現実的な選択肢になった、という読み方ができます。

MCPで電子カルテを参照する仕組み

MCP(Model Context Protocol)は、LLMアプリケーションと外部データ・機能を標準手順で接続するためのオープンプロトコルです。ベンダーごとに異なるAPI仕様を個別実装する代わりに、ツールとリソースを共通スキーマで公開できます。

この事例では、オープンソース電子カルテ「OpenDolphin」バージョン2.5.1m_WF36をMCP経由で参照しています。OpenDolphinは2001年の経済産業省ドルフィンプロジェクトで開発が始まり、2004年にオープンソース化された日本発の電子カルテです。日医標準レセプトソフトORCAとの連携実績があり、GPL3ライセンスで公開されています。

医療分野でのMCP活用では、HL7 FHIR(医療データ交換規格)のPatientやObservation取得をツールとして定義する設計が推奨されています。OpenDolphin向けに施設側でMCPサーバーを構築し、患者IDや期間を引数にカルテデータを返す形にすれば、LLMは必要な情報だけを取得できます。読み取り系と書き込み系を分離し、監査ログを残す設計がセキュリティ上の要点です。

生成モデルと担う業務

推論に使うモデルはGPT-OSS-Swallow-120B(MoE)です。OpenAIのGPT-OSSをベースに、東京科学大学と産業技術総合研究所(AIST)が日本語能力と推論力を強化したオープンモデルで、Apache 2.0ライセンスで公開されています。2026年2月時点で、総パラメータ120B以下のオープンLLMとして日本語タスクで最高水準のスコアを記録したと発表されています。

生成タスクは次の2つが挙げられています。

  • 病歴要約:入院から退院までの診療経過を時系列で整理する作業
  • 紹介状下書き:他院への診療情報提供書のたたき台を作る作業

いずれも医師の事務負担が大きい領域です。三重大病院のtsuzumi実証では年間約1.5万件の退院サマリー作成が対象となり、OPTiM AI ホスピタルでも診療情報提供書の下書き生成に対応しています。SCRCの事例は、同等の業務をオープンモデルで院内処理している点が新しいです。

商用サービスとの位置づけ

OPTiM AI ホスピタルは電子カルテベンダーとの公式連携、FHIR対応、54.2%の事務時間削減実績など、導入から運用までの支援が揃った製品です。2026年3月にはオンプレとクラウドを併用するハイブリッド構成のver.3.0も提供開始されています。

SCRC型の自前構築は、初期コストをハードウェア調達に集中させ、モデルと接続方式を施設のポリシーに合わせて選べる反面、MCPサーバーの開発、GPU運用、モデル更新、医療安全の運用設計を施設側が担う必要があります。生成結果は必ず医師が確認・修正する前提で、AIの出力をそのままカルテに記録してはなりません。

厚生労働省の3省2ガイドラインでは、医療情報の適切な取り扱いと説明責任が求められます。MCP連携では、どのツールを根拠に要約したかを追跡できる設計が推奨されており、監査ログとアクセス権限の最小化は導入前に設計すべき項目です。

小規模施設にとける示唆

中古Dellサーバー、512GB RAM、Tesla P40 2枚、オープンソース電子カルテ、Apache 2.0の日本語LLM——この組み合わせは、数千万円規模の商用導入が難しいクリニックや診療所でも検討できる部品が揃っています。

ただし「接続できた」と「臨床で安全に使える」は別問題です。ハルシネーション(事実と異なる生成)、患者同定ミス、権限のないカルテへのアクセスなど、医療AI特有のリスクは運用ルールと技術的ガードレールの両方で抑える必要があります。まずは読み取り専用の参照と下書き生成に限定し、段階的に検証範囲を広げる進め方が現実的です。

オープンモデルとMCPの成熟により、院内完結の医療AIは一部の先進施設だけでなく、技術に手を入れる意欲のある医療機関全体の選択肢になりつつあります。