Trigger.dev — AIエージェント本番稼働の基盤ツール

AIエージェントのプロトタイプを作るのは簡単だ。問題は、それを壊れない形で本番環境に載せることにある。

Trigger.devは、AIエージェントとワークフローを本番環境で運用するためのオープンソースプラットフォームだ。TypeScriptで書き、タイムアウトなし・自動リトライ・キュー・オブザーバビリティをすべて管理されたインフラ上で動かせる。

この記事でわかること:

  • Trigger.devが解決する本番AIエージェントの課題
  • 6つのコア機能と使い方
  • 料金プランの構成
  • Temporal・n8nとの違い

AIエージェントを本番で動かす難しさ

AIエージェントは複数のLLM呼び出しやツール実行を連鎖させる。処理が長くなると、AWSのLambdaやVercelのサーバーレス関数ではタイムアウトが発生する。失敗した場合のリトライ、並列実行の制御、処理の途中経過の確認といったインフラを自前で整備するコストは小さくない。

Trigger.devはこれらを「タスク」という単位で抽象化し、開発者がエージェントのロジックだけに集中できる環境を提供する。

6つのコア機能

タイムアウトなしの長時間実行
サーバーレス関数の制約を受けない。LambdaやVercelでは数十秒〜数分で打ち切られる処理も、Trigger.devでは制限なく実行できる。

耐障害性・リトライ・キュー
タスクはべき等性を持ちながら自動リトライされる。キューで並列度を制御し、同一テナントのリクエストを分離するコンカレンシーキーも利用できる。

ランタイムの自由度
ビルド拡張機能でブラウザ(Playwright)、Pythonスクリプト、FFmpegなどのシステムパッケージをデプロイイメージに組み込める。TypeScriptだけでなくPythonのAIライブラリも呼び出せる。

ヒューマン・イン・ザ・ループ
waitForToken() を使うと、人間の承認・却下・フィードバックが得られるまで処理を一時停止できる。承認後に自動で再開する。

リアルタイム配信とストリーミング
バックグラウンドで動くタスクの状態変化をサブスクライブし、LLMのレスポンスをそのままフロントエンドにストリーム転送できる。

オブザーバビリティと監視
各タスクの実行はフルトレースとログで記録される。エラーアラートの設定、メトリクスのダッシュボード確認、過去の実行の再実行(Replay)が可能だ。

フレームワーク・モデルを問わない設計

Trigger.devはVercel AI SDK、OpenAI Agents SDK(JS/TS・Python)、LangChain、LlamaIndex、Gemini、Anthropic、Mistralなど主要なすべてのライブラリ・モデルに対応している。自社のコードベースにそのまま組み込めるため、専用のオーケストレーション基盤に移行するコストが不要だ。

TypeScript SDKはZodスキーマによるエンドツーエンドの型安全を提供し、AIエージェントのツール定義に自動変換できる。

料金

プラン 月額 無料枠 同時実行数
Free $0 $5分の使用量 20
Hobby $10 $10分の使用量 50
Pro $50 $50分の使用量 200以上

課金は「コンピューティング秒数」と「実行回数」の2軸で計算される。たとえば処理時間10秒のタスクを1日100回実行した場合、1回あたり約$0.000363(small-1xマシン使用時)になる。タスクが別タスクの完了を待つ間はコンピューティングがチェックポイントされるため、待機時間は課金されない。

自己ホスティングもApache 2.0ライセンスのもとで利用できる。

Temporalやn8nとの違い

Temporalはエンタープライズ向けの堅牢なワークフローエンジンだが、運用負荷が大きい。n8nはノーコードに近いUIベースのツールで、大規模な自動化になると複雑化しやすい。Trigger.devはコードファーストで、TypeScriptの型システムをそのまま活用しながら、TemporalやBullMQ相当の信頼性をマネージドサービスとして提供する点が異なる。

実際にflick.socialはTemporalからTrigger.devに移行した結果、タスク成功率が87%から100%に改善したと報告している(参考)。

Series Aとロードマップ

2026年、Trigger.devはYCの最古参パートナーであるDalton Caldwell、Gmailの共同創業者Paul Buchheitらが創設したStandard Capitalを筆頭に、$16Mのシリーズ A資金調達を完了した。既存投資家のY Combinator、Liquid 2、Pioneer Fund、Rebel Fundも追加出資している。

現在、月間で数億回のエージェント実行を30,000人以上の開発者が行っており、使用量の90%以上がエージェントワークフローだという。

今後のロードマップには、MicroVMによる高速起動、高度なオブザーバビリティ、未信頼コードを安全に実行するサンドボックス機能、コンテキストエンジニアリング向けのツール群が予定されている。

まとめ

AIエージェントを本番環境で動かすとき、タイムアウト・リトライ・可観測性・スケーリングというインフラの課題が必ず浮上する。Trigger.devはその課題をTypeScriptのコードベースに溶け込む形で解決する。無料プランから試せるため、既存のエージェント実装を持つ開発者にとって移行のハードルは低い。