化粧品の検索は、もう検索エンジンだけでは完結しません。
L’Oréal(ロレアル)は2026年6月17日、パリで開催中のテックカンファレンス「VivaTech 2026」でOpenAIとの大型提携を発表しました。ChatGPT内でのバーチャル試着、商品情報の直接連携、AIネイティブ広告まで、消費者がAIと会話しながら化粧品を選ぶ流れが具体化しています。
この記事でわかること
- L’OréalとOpenAIの提携で何が始まるのか
- ChatGPT内のメイク試着と商品発見の仕組み
- GPT-Rosalindを使ったスキンケア研究の方向性
- 化粧品ブランドがLLM時代に求められるGEO(生成エンジン最適化)の考え方
提携の全体像
今回の協業は、大きく2つの領域に分かれます。1つ目は消費者向けの購買体験とエージェント型コマース。2つ目は研究・マーケティングなど社内業務へのAI活用です。
L’OréalのChief Digital and Marketing OfficerであるAsmita Dubey氏は、発表に先立つ取材で「AIにもっと厳しい要求をできる」と述べ、消費者・マーケター・研究者の双方を補強する姿勢を示しました。OpenAI側ではEMEAマネージングディレクターのEmmanuel Marill氏が、研究の加速から消費者体験の改善まで幅広く協力するとコメントしています。
なぜ今、ChatGPTなのか
L’Oréalが注目するのは、消費者の「発見」の入り口がLLMに移りつつあるという変化です。Dubey氏は「ビューティー発見の正面玄関は、いまやLLMになっている」と説明しています。
背景には、AIとの会話が長くなるほど購買の質が上がるという逆説があります。L’Oréalはこれを「11分のパラドックス」と呼んでいます。従来のGoogle検索では3〜4分程度で商品を探す一方、Google AI Modeのセッションでは会話が重なり、平均約11分に及ぶとGoogle AnalyticsとeMarketerの調査で示されています(参考)。
摩擦は減るが、時間は短くならない。この前提のもと、L’OréalはChatGPTの月間アクティブユーザー10億人超という規模を、新しい販売チャネルとして位置づけています。
ChatGPTで始まる3つの消費者向け機能
メイクのバーチャル試着
今夏、Maybelline New York(メイベリン ニューヨーク)から、ChatGPT内でのメイク試着が始まります。L’Oréalが2018年に買収したModiFaceの技術を使い、会話の流れの中でリアルタイムにメイクを試せます。従来はブランドアプリやECサイトで提供してきた試着体験が、ChatGPTの会話UIに組み込まれる形です。
商品情報の直接フィード
米国では、Lancôme(ランコム)やKérastase(ケラスターゼ)など複数ブランドの商品発見を強化します。Web上の断片情報をAIが拾うのではなく、数千SKU分の商品データをOpenAIへ直接供給する方針です。商品説明に「全肌質対応」のような短い文言だけでなく、「海辺で使った」「50代から肌が乾燥した」といった利用シーンの文脈を加える必要性も、Dubey氏は強調しています。
AIネイティブ広告のパイロット
SkinCeuticals(スキンシューティカルズ)、CeraVe(セラヴェ)、Garnier(ガーニエ)の3ブランドが、ChatGPTのグローバル広告パイロットに参加します。会話の文脈に沿った広告表示を試す取り組みで、従来の検索連動型広告とは設計が異なります。
研究とマーケティングへの波及
GPT-Rosalindで肌のマイクロバイオームを解析
OpenAIが2026年4月に公開したGPT-Rosalindは、生命科学向けの推論モデルです。化学・タンパク質工学・ゲノム解析など、研究ワークフローに特化して設計されています。L’Oréalはこのモデルを使い、肌上の細菌叢(マイクロバイオーム)のマッピングを進め、有益な菌を特定して次世代スキンケアの開発を加速します。最初の対象ブランドはLa Roche-Posay(ラ ロッシュ ポゼ)です。
CreAItechへのモデル統合
社内の生成AIコンテンツ基盤「CreAItech」にも、OpenAIの最新モデルが組み込まれます。テキストから画像を生成する能力を活かし、ブランドのトーンを保ったマーケティング素材の制作を支援します。あわせて、画像生成1回あたりのCO2換算を表示する機能も追加され、社内利用の環境負荷を可視化する方針です。
LLM時代の「発見可能性」とGEO
L’Oréalが並行して進めるのが、GEO(Generative Engine Optimization、生成エンジン最適化)です。検索結果の順位ではなく、LLMの回答レイヤーにブランドがどう登場するかが問われる時代に、コンテンツの権威性・一貫性・商品データの機械可読性を整える活動と位置づけています。
La Roche-Posayは、25万人の医療関係者ネットワークと850件の医学研究実績を背景に、権威ある情報源としてLLMに認識されやすい土台を持っています。一方で、SNSやECサイトに散在する動画・画像コンテンツにトランスクリプトを付与し、ブランドメッセージの一貫性を保つ作業も進めています。
Amazon(米国のBrand 360パートナー)やAlibaba(中国のAIビューティーパートナー)との商品データ連携も、同じ「機械にも人にも読める商品棚」づくりの一環です。
エージェント型コマースへの布石
L’Oréalの最終的な狙いは、AIエージェントが消費者の代わりに、あるいは一緒に商品を選び購入する「エージェント型コマース」です。会話が長くなる11分のパラドックスを、パーソナライズされた提案で購買体験に変える構想です。
社内では7万3千人の従業員が生成AIの研修を受け、L’OréalGPTなどの社内ツールを使える状態にあります。Nvidiaとの提携も研究開発部門へ拡大し、化学・材料科学向けモデル「Alchemi」を製剤開発に活用する計画も示されています。
化粧品業界に限らず、EC事業者やブランドマーケターにとって、LLMを新しい販売フロントとしてどう設計するかの実例が、ここにまとまっています。

