携帯ゲーミングPCの価格が1,000ドル台から1,800ドルへと跳ね上がる中、MSIはIntel製の専用チップを搭載した「Claw 8 EX AI+」を6月23日に発売した。性能は現行モデルの中でトップクラスだが、価格の高さが購入の最大の壁になる。

この記事では、MSI Claw 8 EX AI+のスペック変更点、実測ベンチマーク、Steam Deckや競合モデルとの比較を整理する。

この記事でわかること

  • Intel Arc G3 Extremeを初搭載した携帯ゲーミングPCの位置づけ
  • 1200p/120HzディスプレイやThunderbolt 4など主要スペック
  • Steam Deck・Legion Go 2・ROG Xbox Ally Xとの性能・価格の違い
  • 1,800ドルという価格設定がもたらすメリットとデメリット

https://www.msi.com/Handheld/Claw-8-EX-AI-plus

何が変わったか

MSI Claw 8 EX AI+は、2025年モデルの「Claw 8 AI+」を置き換えるフラッグシップ機だ。前世代がIntel Core Ultra 7 258V(Lunar Lake)を搭載していたのに対し、新モデルはIntelが携帯ゲーム機向けに設計した「Arc G3 Extreme」SoCを採用する。MSIはComputex 2026で「世界初のArc G3 Extreme搭載携帯ゲーム機」として発表した。

構成は1種類のみで、Arc G3 Extreme、32GB LPDDR5x-8533メモリ、1TB PCIe Gen 4 SSDがセットだ。公式ストアの価格は1,799.99ドル、Neweggでは1,699ドルで販売されている。前世代のClaw 8 AI+がAmazonで1,119ドル前後だったことを踏まえると、世代交代と同時に大幅な値上げとなった。

Intelが携帯ゲーム機専用チップを作った理由

従来、携帯ゲーミングPCのメーカーはノートPC向けのU世代プロセッサを流用していた。Intelはこの課題に応えるため、Panther LakeアーキテクチャをベースにしたArc G3シリーズを2026年6月に正式発表した。CPUとGPUのバランスをグラフィックス寄りに調整し、携帯ゲーム機特有の電力管理を最適化している。

Arc G3 ExtremeのCPUは14コア構成で、パフォーマンスコア2個、効率コア8個、低消費電力効率コア4個からなる。GPUはArc B390でXe3アーキテクチャの12個のXeコアを搭載する。Intelの公称値では、AMD Ryzen Z2 Extremeと比べゲーム平均で最大44%高いフレームレート、17W持続時は最大24%の性能向上をうたっている。

スペックと筐体の変更点

ディスプレイは8インチIPSパネルで、解像度1,920×1,200(1200p)、リフレッシュレート120Hz、VRR対応、最大輝度500ニトを備える。OLEDではないが、sRGB色域をカバーする明るい画面だ。筐体は「Void Purple」と呼ばれる紫系のカラーで、握りやすさを重視したグリップ形状に刷新された。

操作系はホールエフェクトのスティックとトリガーを採用し、ドリフト耐性を高めている。背面にはカスタマイズ可能なパドルボタンを2つ配置する。新しいリニアレゾナントアクチュエーターによる触覚フィードバックと、電源ボタン内蔵の指紋認証センサーも追加された。

接続面ではThunderbolt 4対応のUSB-Cポートを2基、microSD Expressスロット、3.5mmヘッドホンジャックを装備する。Wi-Fi 7、Bluetooth 6.0にも対応する。バッテリーは80Whと、ウルトラポータブルノートPC並みの大容量で、USB-C経由の最大65W充電に対応する。重量は約784gだ。

ソフトウェア面では、Xbox ModeによるフルスクリーンUIと、XeSS 3アップスケーリング、マルチフレーム生成(MFG)に対応する。MFGはNPUを使い、実フレーム1枚あたり最大3枚のAI生成フレームを挿入して120Hz表示を活かす技術だ。ただしEngadgetのレビューによると、発売時点ではEnduranceモードとの併用は未対応だった。

実測性能は競合を大きく引き離す

各メディアのレビューでは、現行の携帯ゲーミングPCの中で最高クラスの性能が報告されている。

Engadgetの検証では、Cyberpunk 2077をFHD・中設定・XeSSパフォーマンス・35Wで実行した際、Claw 8 EX AI+は95fpsを記録した。同条件のASUS ROG Xbox Ally Xが62fps、Lenovo Legion Go 2が57fpsで、50〜75%のフレームレート差が出ている(参考)。

IGNの検証では、1200p・高設定・XeSSパフォーマンスでCyberpunk 2077を走らせたところ、Claw 8 EX AI+は54fps、同価格帯のLegion Go 2は37fpsだった。前世代のClaw 8 AI+と比べると3DMark Time Spyで最大47%、同ゲームで最大54%の性能向上が確認されている(参考)。

低消費電力でも差は顕著だ。Engadgetによると、ReturnalをFHD・中設定・17Wで実行した場合、Claw 8 EX AI+は59fpsに対し、Ally Xが42fps、Legion Go 2が39fpsだった。Intelが携帯向けに2つのPコアを無効化した設計は、バッテリー持続と性能のバランスに寄与している。

Steam Deckや競合との比較軸

価格比較では、Steam Deck OLED 1TBモデルが2026年5月の値上げ後949ドル、512GBモデルが789ドルになっている。Valveはメモリ・ストレージコストの上昇を理由に掲げた。Claw 8 EX AI+はSteam Deckの約1.9倍の価格だが、Windows上で最新AAAタイトルを1200pで快適に動かす性能は段違いだ。

同じ1,799ドルのLenovo Legion Go 2と比べると、IGNの検証では最大55%の性能差が出ている。一方、999ドルのASUS ROG Xbox Ally Xは価格が半分以下だ。Ally XはCyberpunk 2077で1080p・高設定・FSR品質モード時44fpsで、Clawの54fps(1200p)との差は約20%にとどまる。性能最重視ならClaw、コストパフォーマンスならAlly Xという棲み分けがはっきりする。

モデル 価格(米国) GPU/SoC ディスプレイ メモリ
MSI Claw 8 EX AI+ 1,799ドル Intel Arc G3 Extreme 8インチ 1200p 120Hz IPS 32GB
Lenovo Legion Go 2 1,799ドル AMD Ryzen Z2 Extreme 8インチ 1200p 144Hz 32GB
ASUS ROG Xbox Ally X 999ドル AMD Ryzen Z2 Extreme 7インチ 1080p 120Hz 24GB
Steam Deck OLED 1TB 949ドル AMD Zen 2 APU 7.4インチ 800p OLED 16GB

1,800ドルという価格の意味

Notebookcheckの報道では、Claw 8 EX AI+の価格上昇の一因としてDRAM不足が指摘されている。AIデータセンター向けのメモリ需要が高まり、携帯ゲーム機を含むPC全体の部品コストが押し上げられている。

Engadgetは評価8.2/10を付け、「クラス最高の性能」「優れたバッテリー持続」「明るい大画面」を長所に挙げつつ、「非常に高価」であることを最大の短所とした。バッテリーはEnduranceモードで古めのタイトルなら4時間超、新作AAAタイトルでも3時間以上のプレイが可能と報告されている。

Thunderbolt 4ポート2基を使えば、ドッキングステーション経由でデスクトップPC代わりにも使える。携帯ゲーム機とミニPCの二役を担う設計だが、1,800ドルなら中級ゲーミングノートPCも視野に入る。MSI Claw 8 EX AI+は「持ち運びながら最高のWindowsゲーム体験を求める層」に向いた製品であり、Steam Deckのような入門価格帯とは明確にターゲットが異なる。