クラウドの計算性能は、AIの推論や動画エンコードのような重い処理ほど差が出ます。AWSは2026年6月30日、第5世代独自CPU「Graviton5」を搭載したコンピュート最適化インスタンス「Amazon EC2 C9g」「C9gd」の一般提供を開始しました。前世代C8g比でvCPUあたりの性能が最大25%向上し、エージェント型AIやHPCにも対応する構成です。
この記事では、C9g/C9gdの変更点と選び方、セキュリティ面の新機能まで整理します。
この記事でわかること
- C9gとC9gdの違いと向いているワークロード
- Graviton5による性能・メモリ・キャッシュの強化内容
- Nitro Isolation Engineがもたらすセキュリティの変化
- 利用可能なリージョンとインスタンスサイズ
https://aws.amazon.com/ec2/instance-types/c9g/
C9g/C9gdとは何が変わったか
C9gとC9gdは、AWSが自社設計したGraviton5プロセッサを搭載したコンピュート最適化インスタンスです。汎用向けのM9g/M9gdに続き、高性能ワークロード向けにGraviton5が展開された形になります(AWS公式ブログ)。
前世代のGraviton4ベースC8gと比べ、vCPUあたりの計算性能は最大25%向上します。Webアプリケーションは最大35%、機械学習推論は最大35%、データベースは最大30%の高速化も謳われています。動画エンコード、科学計算、分散分析、CPUベースのML推論、広告配信など、計算負荷の高い処理が主な想定用途です。
なぜ性能が上がったのか
Graviton5の強みは、コア数の増加に加えてメモリとキャッシュの拡張にあります。DDR5 8800MT/sのDIMMを採用し、AWSは「クラウド上のプロセッサインスタンスで最速のメモリ」と説明しています。L3キャッシュはGraviton4比で5倍、パケット処理性能は最大3倍に達します。
データ待ちの時間が減るため、インメモリ分析やリアルタイム処理のスループットが上がりやすくなります。AIが質問応答から複数ステップのタスク実行へ移行する中、CPU負荷の高いエージェント型AI(agentic AI)ワークロードにも向くとAWSは位置づけています。
第6世代AWS Nitro System上に構築され、PCIe Gen 6にも対応しています。ネットワーク帯域はサイズ平均で最大15%、EBS帯域は最大20%向上。最大サイズの48xlargeではネットワーク100Gbps、EBS帯域72Gbpsで、いずれも前世代の約2倍です。
C9gとC9gdの使い分け
ストレージの扱いが2系統の違いです。
C9gはAmazon EBS(Elastic Block Store)を使うワークロード向けです。バッチ処理や動画エンコードパイプラインなど、ブロックストレージ経由でデータを扱う処理に適します。
C9gdはローカルNVMe SSDを内蔵するタイプです。前世代のローカルストレージ搭載インスタンスと比べ、スループットとIOPSが最大30%向上します。HPCのスクラッチ領域、ML推論の一時キャッシュ、広告配信のローカルバッファなど、低遅延のローカルストレージが必要な場面で選びます。NVMeのI/Oメトリクスは1秒粒度のレイテンシヒストグラムとしてCloudWatchやnvme-cliから追加料金なしで取得できます。
インスタンスサイズと追加機能
11サイズ(mediumから48xlarge)に加え、ベアメタル(metal-48xl)も用意されています。最小のmediumは1 vCPU・2GiBメモリ、最大の48xlargeは192 vCPU・384GiBメモリです。
その他の主な機能は次のとおりです。
- Instance Bandwidth Configuration(IBC)でEBSとVPCの帯域配分を最大25%調整可能
- ENA Expressによる拡張ネットワーキング
- 仮想インスタンスへのEBSボリューム最大128個のアタッチ
- Savings Plans、オンデマンド、Spot、専有インスタンス、専有ホストでの購入
Nitro Isolation Engineという新しい隔離層
C9g/C9gdは、コンピュート最適化インスタンスとして初めてAWS Nitro Isolation Engineを搭載しています。Nitro Hypervisor内のRust製コンポーネントで、VMのメモリ・CPUレジスタ状態・I/Oデバイスへのアクセスを最小限のAPI経由に限定し、VM間の隔離を強制します。
AWSは形式検証(formal verification)により、VM間およびAWSオペレーターからのワークロード隔離を数学的に保証すると説明しています。Nitroは「初の形式検証済みクラウドハイパーバイザー」と位置づけられ、Graviton5インスタンスでは常時有効な機能です(AWS Compute Blog)。
利用開始の手順
2026年6月30日時点で、以下のリージョンで一般提供されています。
- US East(オハイオ、バージニア北部)
- US West(オレゴン)
- Europe(フランクフルト)
追加リージョンは年内に展開予定です。AWSマネジメントコンソール、AWS CLI、各種SDKから起動できます。料金はAmazon EC2 Pricingページで確認してください。
M9g/M9gdが汎用ワークロード向けであるのに対し、C9g/C9gdは計算性能を最優先する用途向けです。既存のGraviton4ベースC8g/C8gdから移行する場合、ストレージ要件(EBSかローカルNVMeか)と帯域ニーズを先に整理すると、サイズ選定がしやすくなります。