AIエージェントが人間の承認なしにサービスを売買する時代に、端末の安全性まで含めた基盤づくりが始まりました。

2026年7月4日、Web3スマートフォンを手がけるMAGNE.AIは、自律型AIエージェント向けの経済レイヤーを構築するPROMとの戦略的提携を発表しました。PROMはモジュラーzkEVM(ゼロ知識証明を用いたEthereum互換の仮想マシン)上で、エージェント同士の取引・タスク調整・サービス交換を担うインフラを提供します(参考)。

この記事では、提携の背景と両社が目指す「デバイスから担保するエージェント経済圏」の全体像を整理します。

この記事でわかること

  • MAGNE.AIとPROMが提携で解決しようとしている課題
  • PROMのzkEVM基盤がエージェント経済に提供する4つの機能
  • ハードウェア信頼の根(ルート・オブ・トラスト)が必要な理由
  • ManusPay連携など、MAGNE.AIが既に進めているエージェント決済の文脈

チャットを超えたエージェントには決済と調整の基盤が欠けていた

AIエージェントは会話ツールから、API呼び出しやデータ購入、他エージェントへの作業委託まで自律的に行う存在へ進化しています。一方で、人間向けに設計された決済インフラは、エージェントの高頻度・小額・無人運用に対応しきれません。

クレジットカードや銀行振込は、利用者が都度承認する前提です。エージェントがAPI利用料を秒単位で支払ったり、別のエージェントにリサーチ作業を発注したりする場面では、この前提がボトルネックになります。PROMは公式発表で、エージェントがWeb3環境で取引・タスク調整・サービス交換を「人間の介入なし」に行うための経済レイヤーを構築していると説明しています(参考)。

MAGNE.AI側も同じ課題意識を持ち、2026年2月にはManusPayのx402プロトコルを自社Web3スマートフォンプラットフォームに統合し、エージェントによるマシン間決済をサブ50ミリ秒のファイナリティで実行できるようにしています(参考)。今回のPROM提携は、決済速度の強化に加え、エージェントの身元確認やタスク検証まで含む経済圏全体を視野に入れた動きです。

PROMが担うzkEVMベースのエージェント経済インフラ

https://prom.io

PROMは2019年にPrometeus Networkとして始まり、2024年にzkベースのレイヤー2ネットワークを立ち上げました。Polygon CDKを基盤とするzkEVMネットワークで、オフチェーンで処理したトランザクションをゼロ知識証明で検証するZK-Rollup方式を採用しています(参考)。既存のEthereumスマートコントラクトをそのままデプロイできるEVM互換性を保ちながら、スケーラビリティを高める設計です。

MAGNE.AIの発表によると、PROMの主な特徴は次の4点に整理されます。

  • 数十億件規模のエージェント間マイクロペイメントを想定したマシンネイティブ金融
  • 検証可能な実行と暗号学的保証を提供するzkEVMアーキテクチャ
  • プログラム可能な支払条件・サービス契約・実行ロジック
  • エージェント身元、タスク検証、自律的経済調整のためのAIネイティブモジュール

Pundi Xの公式ブログでも、PROMは高頻度マイクロペイメント、プログラム可能なサービス契約、自動タスク検証、エージェント間決済を「マシンスケール」で扱う経済インフラと位置づけられています(参考)。ネットワークの実績として、ユニークウォレット数250万以上、チェーン上トランザクション数2600万以上、平均ブロック時間6秒未満が公式サイトに掲載されています(参考)。

MAGNE.AIが端末側に持ち込むハードウェア信頼の根

https://www.magne.ai/magne-web/magne-network.html

MAGNE.AIはWeb3ネイティブのAIスマートフォンを開発する企業です。デュアルチェーン構成のMAGNE L1が所有権ロジックと秘密鍵管理を担い、M Hash L2がスマートコントラクト実行とdAppホスティングを担います。秘密鍵はセキュアエレメントに格納され、署名はハードウェア内で完結する設計です(参考)。

今回の提携で両社が探るのは、この端末レベルのセキュリティとPROMのオンチェーン経済レイヤーの接続です。MAGNE.AIの発表では、PROMがマシンスケールでの取引と調整を可能にする一方、MAGNE.AIはエージェントが動作する起点デバイスの改ざん耐性を担保し、エージェント主導の経済活動にハードウェア信頼の根を追加すると述べています(参考)。

エージェント経済では、決済の速さだけでなく「どのデバイスから発信された操作か」の信頼性も問われます。ソフトウェアウォレットだけでは、端末の侵害時にエージェントの署名が偽造されるリスクが残ります。MAGNE.AIはセキュアエレメントによる鍵隔離とNFC暗号化バックアップで、クラウドや紙のシードフレーズに依存しない資産管理を掲げています(参考)。PROMのオンチェーン検証と組み合わせることで、デバイス起点からチェーン上の決済まで一貫した信頼モデルを目指す構図です。

ManusPay連携との位置づけ

MAGNE.AIはエージェント経済への取り組みを段階的に広げています。2026年2月のManusPay提携では、x402プロトコルを決済レイヤーとして統合し、エージェントがAPI呼び出しやデータ購入、サブスクリプション管理、コンピュート費用の支払いを人間の承認なしに行えるようにしました。x402はHTTPの「402 Payment Required」ステータスを決済ハンドシェイクに転用する方式で、エージェント間の即時決済に向いた設計として注目されています(参考)。

PROM提携はこの流れを補完する位置づけです。x402が決済の実行速度とプロトコル互換性を担うのに対し、PROMはエージェント身元管理、タスク検証、自律的経済調整といった経済圏全体のオーケストレーションをzkEVM上で提供します。決済の「速さ」と経済活動の「検証可能性」を別レイヤーで積み上げる方向性が読み取れます。

エージェント経済圏をめぐる業界の動き

MAGNE.AIとPROMの提携は孤立した事例ではありません。PROMはAGNT HubやPundi Xともエージェント経済インフラの構築で協業を進めており、zkEVMモジュールによるエージェント身元・タスク検証・自律調整の拡張を軸に据えています(参考)。

MAGNE.AI自身も2026年6月にはHaven AIと提携し、複数ブロックチェーン上でAIエージェントが効率的に動作するためのソブリン実行レイヤーの開発を進めています(参考)。ハードウェア、決済プロトコル、実行レイヤー、経済調整——エージェントが自律的に稼働するために必要な部品が、2026年に入り急速に接続され始めています。

現時点で分かっていることと今後の注目点

今回の発表は戦略的提携の告知であり、具体的な技術統合のロードマップや提供時期は明示されていません。両社が「探る(explore)」と表現している点から、ハードウェア信頼の根とzkEVM経済レイヤーの接続は検討段階にあると読むのが妥当です。

それでも方向性は明確です。自律型AIエージェントがWeb3上で取引・調整・サービス交換を行うには、オンチェーンの経済インフラと端末レベルのセキュリティの両方が必要になる。MAGNE.AIとPROMの組み合わせは、「デバイスからチェーンまで」を一気通貫で設計しようとする試みとして、エージェント経済圏の次の一手と言えます。