エージェント開発の教材が、公式の手順書として一気に揃いました。
AnthropicはCode with Claude 2026向けのワークショップ教材をGitHubリポジトリ「cwc-workshops」で公開しています。X上では、初回デプロイからメモリ、自律化、プロアクティブ化、自己改善までを段階的に学べる5本・約3時間の無料動画として紹介され、340万回超の閲覧を記録しています(参考)。
この記事では、公式リポジトリの内容と動画の章立てを突き合わせ、どの順番で学ぶと実装の入口から応用までつながるかを整理します。
この記事でわかること
- cwc-workshopsに含まれる9本のワークショップの全体像
- 動画5章が対応する学習テーマと所要時間の目安
- Claude Managed Agents(CMA)の中核APIと新機能の位置づけ
- 各ワークショップを始めるための前提条件とリポジトリURL
何が公開されたか
https://github.com/anthropics/cwc-workshops
Anthropic公式のGitHubリポジトリ「anthropics/cwc-workshops」に、Code with Claude 2026で実施したワークショップの教材がまとめられています。リポジトリのREADMEには「Workshop materials. Not maintained and not accepting contributions.(教材提供のみで、メンテナンスやコントリビューションは受け付けない)」と明記されています。
収録されているのは全部で9本です。モデル選定、マルチエージェント分解、Claude Codeの開発フロー、初回デプロイ、エージェント対戦、メモリ、評価駆動開発、本番向けマルチエージェント、SEC調査デスクと、エージェント構築の各局面をカバーしています。
X上の紹介では、このうち5本を約3時間の連続教材として切り出し、次のタイムスタンプで章立てされています。
- 00:00 — Ship your first Claude agent(初回デプロイ)
- 36:44 — Build memory for Claude agents(メモリ構築)
- 1:05:06 — Make your agent autonomous(自律化)
- 1:26:46 — Set up a proactive agent(プロアクティブ化)
- 2:03:35 — Self-improving agents(tools, skills)(自己改善)
背景:インフラがボトルネックになった2026年
2026年5月6日にサンフランシスコで開催されたCode with Claude 2026では、Claude Managed Agents(CMA)を中心に、エージェントを本番運用するための基盤機能が相次いで発表されました。Anthropicの公式ブログ(2026年5月19日付)では、次の3機能が紹介されています(参考)。
- Dreaming(ドリーミング):過去のセッションとメモリストアを分析し、パターンを抽出してメモリを整理する機能。リサーチプレビューで提供
- Outcomes(アウトカム):ルーブリックに基づき別のグレーダーが出力を採点し、エージェントが自己修正する機能。パブリックベータ
- マルチエージェントオーケストレーション:リードエージェントが専門サブエージェントへ作業を委譲する機能。パブリックベータ
Anthropicは「インテリジェンスではなくインフラが、本番エージェントのボトルネックになっている」と位置づけ、サンドボックス実行、チェックポイント、認証情報のスコープ制御といった基盤を前面に出しています。ワークショップ群は、この思想を手を動かして体得するための教材です。
第1章:初めてのClaudeエージェントを動かす
動画00:00からの章は、リポジトリの「ship-your-first-managed-agent」に対応します。架空のECサイトでチェックアウトのレイテンシが10倍に跳ね上がるインシデントを題材に、Streamlit製のダッシュボードとSREエージェントのチャットパネルを接続します。
学習者が書くのはagent.pyの7関数だけで、合計約34行です。各関数はClaude Managed Agents APIの1コールに対応し、エージェント作成、環境作成、ログアップロード、セッション開始、ストリーム応答、ローカルツール実行、セッション削除を順に実装します。
完成すると、エージェントはクラウドサンドボックス内で7万行のJSONログをgrepし、ローカルのメトリクス・デプロイ情報・差分データを突き合わせて、原因コミットを特定します。ここで押さえる概念は、Agent → Environment → Session → Eventsという4リソースの関係、サンドボックス内コード実行、クラウド上のエージェントがローカルツールを呼ぶカスタムツール連携、セッションの永続化です。
第2章:セッションをまたいで記憶させる
36:44からの章は「agents-that-remember」が該当します。45分のワークショップで、セッション間で記憶を失うエージェント(公式資料では「goldfish」)から、同僚のように過去の文脈を引き継ぐエージェントへ段階的に育てます。
まずメモリストアを導入します。メモリストアはワークスペース単位の永続ストレージで、セッション作成時に--resourceフラグでアタッチすると、サンドボックス内の/mnt/memory/以下にマウントされます。エージェントは通常のファイルツールで読み書きし、複数セッションで同じストアを共有すれば記憶が引き継がれます(参考)。
次にDreamingを使います。Dreamingは非同期のバッチジョブで、既存のメモリストアと過去のセッション文字起こしを入力に、重複の統合や事実確認を経て新しいメモリストアを出力します。エージェントが参加していない過去セッションの知識も、整理された形で次のセッションに渡せます。メモリストアは「今すぐ状態を持ち越す」用途、Dreamingは「過去の会話を蒸留して記憶を強化する」用途と使い分けます。
第3章:エージェントを自律的に動かす
1:05:06からの章は、複数エージェントの委譲と並列実行を扱う「production-ready-agent」および「agent-decomposition」に相当します。
「production-ready-agent(Deal Desk)」では、M&A調査を題材にコーディネーターエージェントが4つのリサーチサブエージェントへ並列委譲します。メモリストアから過去案件の教訓を読み、LinearへのMCP接続で課題管理と連携し、アウトカム機能で投資テーゼを採点します。UIはSSEでイベントをストリームし、ゲート付きツール呼び出しの承認フローも実装対象です。
「agent-decomposition(StockPilot)」では、402行のシステムプロンプトと12ツールを抱えた在庫管理エージェントを、Skills・コード実行・サブエージェントに分解します。評価12タスクでのスコアは71%から92%に改善し、日次在庫スイープの処理時間は488秒・102ツールコールから約100秒・3スクリプトに短縮されたと公式READMEに記載されています。ツールコール、Skill、サブエージェントの使い分け基準も明示されており、2,000トークン超の出力はコード実行へ、プロンプトに書きがちな手順はSkillへ、という判断軸が示されています。
第4章:プロアクティブに動くエージェントを組む
1:26:46からの章は「research-desk(The Research Desk)」が中心です。SEC提出書類をedgartoolsで読む株式調査デスクを構築し、ヘッドオブリサーチが銘柄ごとにアナリストセッションをディスパッチするfan-out/fan-in構成を学びます。
各アナリストは財務抽出とリスク分析のサブエージェントを束ね、アウトカムのルーブリックで採点し、共有メモリストアに学習内容を書き戻します。ここでのプロアクティブ性は、Deployments機能による定期実行に表れます。週次メモの自動生成をスケジュールし、人がプロンプトを投げなくてもデスクが動き続ける設計です。オーケストレーターはサーバー側で長時間稼働するため、ノートPCを閉じてもfan-outが継続します。
Claude Code側にも、2026年4月にRoutinesがリサーチプレビューで登場しています。スケジュール、APIエンドポイント、GitHubイベントの3トリガーで、保存済みのプロンプトとリポジトリ構成をAnthropic管理のクラウド上で自動実行できます(参考)。CMAのDeploymentsとClaude Code Routinesは層が異なりますが、「待ちの対話」から「能動的な定期実行」への移行という課題は共通です。
第5章:ツールとSkillsで自己改善する
2:03:35からの章は「agent-decomposition」と「eval-driven-agent-development」が重なります。後者では、PPTX生成エージェントを6バリアント(素朴・ビジュアル・タイポグラフィ・パレット・密度・QAループ)で比較し、.pptxのXMLメトリクスとLLM-as-judgeの2層グレーダーで改善を定量化します。
自己改善の仕組みは3層に分かれます。Dreamingがセッション間でメモリを蒸留する層。Outcomesがルーブリックに基づき出力を採点・修正する層。Evalsがプロンプト変更の効果を数値で検証する層です。Anthropicの公式ブログでは、Outcomesにより最難タスクの成功率が最大10ポイント向上し、docx生成で+8.4%、pptx生成で+10.1%の改善が報告されています。
HarveyはDreaming導入後に完了率が約6倍になったと事例紹介され、Spiral by EveryはマルチエージェントとOutcomesで執筆品質を担保しているとされています。教材と事例を合わせると、「賢さを上げる」より「失敗を記録し、採点し、記憶に残す仕組みを足す」方向がAnthropicの推奨パターンだと読み取れます。
学習を始めるときの前提
各ワークショップはAnthropic APIキーとClaude Managed Agentsベータへのアクセスが前提です。「agents-that-remember」ではDreamingのリサーチプレビューへのオプトインも必要と明記されています。Python 3.10以上、またはNode.js 22以上(research-desk)など、教材ごとに環境要件が異なるため、着手前に各ディレクトリのREADMEを確認してください。
リポジトリはApache License 2.0です。メンテナンスは行われないため、APIの変更があった場合は公式ドキュメント(Managed Agents概要)を併読するのが安全です。
動画5章と9本の教材を対応づけると、初回デプロイでAPIの骨格を掴み、メモリとDreamingで状態管理を学び、マルチエージェントと分解で自律性を高め、DeploymentsとRoutinesでプロアクティブ運用に進み、EvalsとOutcomesで改善ループを閉じる——という学習パスが一本の線として見えてきます。有料講座に相当する内容が公式GitHubで無料公開されている点は、エージェント開発を本格化したい開発者にとって実利的な入口です。