「ロブスターを飼う」がSNSで流行し、数日でアンインストール代行まで出てきました。OpenClawは便利さとリスクが同時に表面化した事例です。

この記事では、中国で何が起きているか、なぜ導入と削除の両方でお金が動くのかを整理します。

この記事でわかること

  • OpenClawが中国で急拡大した背景
  • 導入代行からアンインストール代行まで広がる「サービス経済」
  • 政府・機関の警戒と、一般ユーザーが不安を感じる理由

OpenClawとは何か

OpenClawは、自分のPCやサーバー上で動かすオープンソースのAIエージェントです。開発者のPeter Steinberger氏が主導し、2025年11月に公開されました。ロブスターのマスコットが象徴で、中国では「ロブスターを飼う(育てる)」が導入の隠語として広まっています。

AIエージェントとは、チャットで指示を受けるだけでなく、メール送信やスケジュール管理などを自律的に実行するプログラムのことです。OpenClawはWhatsAppやTelegram、Slack、Discord、WeChatなど複数のメッセージアプリと連携し、常時稼働するゲートウェイ(制御の中枢)を通じてタスクを処理します。GitHub上のリポジトリはスター数がLinuxを上回る規模まで伸び、2026年2月にはSteinberger氏がOpenAIに入社したことも話題になりました。

中国で導入ブームが起きた理由

中国での利用は米国を上回ったと、サイバーセキュリティ企業SecurityScorecardが指摘しています(参考)。背景には、国産大規模言語モデル(LLM)の性能向上と低価格化があります。OpenRouterのデータでは、OpenClawユーザーが直近1か月に使ったモデルの上位3つはいずれも中国企業製で、Google GeminiやAnthropic Claudeの上位3モデル合計の2倍の利用量でした。

導入のハードルも下がっています。OpenClawはCLIでのセットアップが前提で、非エンジニアには難しいツールです。それに対しTencentは深圳本社で無料の対面インストール会を開き、約1000人が列を作ったと現地メディアが報じました。JD.comは399元(約58ドル)でLenovo傘下のIT保守チームによるリモート導入支援を販売。ByteDance傘下のVolcano Engineはブラウザだけで使える「ArkClaw」を公開し、ローカル環境の構築を省略できる道も用意しました。

地方政府も追い風です。深圳の龍崗区や無錫の一部行政区は、OpenClawを使うスタートアップ向けに最大72万ドル相当の補助金や住居支援を打ち出しました。CNBCの報道では、最大1000万元(約146万ドル)の出資支援を掲げる地区もあります。

セキュリティ懸念が後押しする制限

盛り上がりの裏で、公的な警戒も強まっています。2026年2月初旬、中国の国家脆弱性情報庫(工業和信息化部管轄)は、設定不備のOpenClaw環境がサイバー攻撃や情報漏えいのリスクを招く可能性があると警告しました。

Bloombergの報道では、政府機関や国有企業(大手銀行を含む)の職員に対し、業務端末へのインストール禁止と、既に導入済みなら上司への報告が求められています。一部大学もキャンパス内での利用を制限しました。RADIIの取材では、ユーザー側の不安として「意図と違う動きをする」「アクセス制御の不備」「API利用料の想定外の増加」が挙がっています。

OpenClawはローカルで高い権限を持ち、サードパーティ製プラグインも追加できるため、設定を誤ると被害が広がりやすい構造です。公式ドキュメントでもAPIキーと権限管理の厳格化が推奨されています。

アンインストール代行という逆方向のビジネス

警戒が広がるなか、新たな副業が生まれました。Alibaba傘下のフリマアプリ「閑魚(Xianyu)」では、OpenClawのアンインストール代行が299元(約44ドル)前後で出品されています。Business Insiderの調査では、最高87ドルまで値がつく例も確認されました。SNSのRedNote(小紅書)でも同様のサービスが見つかります。

出品者の中には、残存ファイルやウイルス除去を約束するもの、訪問対応で追加料金を取るものもあります。RedNoteの投稿では「ロブスターを載せるのに599元、降ろすのに299元」といった皮肉なコメントが広がり、「OpenClawサービス経済」と呼ばれるようになりました。Business Insiderが紹介した事例では、導入代行だけで数日間に約3万6000ドル(約540万円)を稼いだ業者もいます。

削除が難しい理由は、OpenClawがバックグラウンドの常駐サービスや設定ディレクトリを残すためです。macOSではLaunchAgent、Linuxではsystemd、Windowsではスケジュールタスクとしてゲートウェイが登録されます。CLIのopenclaw uninstallコマンドはありますが、OAuth連携先のトークン無効化や旧バージョンの設定フォルダ削除まではカバーしません。技術に不慣れなユーザーは、専門家に頼むほうが早いと判断したのでしょう。

普及と反動が示すこと

中国のOpenClawブームは、AIエージェントへの期待と不安が同時に噴き出した現象です。企業と自治体は導入を後押しし、ユーザーは日程管理や副業の自動化に手を伸ばしました。一方で、高いシステム権限を要するツールを十分に理解せず導入すると、セキュリティリスクと運用コストが直撃します。

「導入して稼ぐ」「削除して稼ぐ」という二重のサービス経済は、ツールの人気の大きさを物語ります。同時に、AIエージェントを本番環境に載せる前に権限設計とデータの扱いを確認する必要性も浮き彫りになりました。OpenClawに限らず、自律型AIを試す読者は、まずサンドボックス環境で動作を確認し、不要になったら連携先のトークンまで含めてクリーンアップする手順を押さえておくのが安全です。