TypeScriptでAIエージェントを組むなら、VercelのAI SDKは定番の選択肢です。2026年6月25日、週間1600万ダウンロード超の同SDKにメジャーアップデート「AI SDK 7」が公開されました。
この記事では、AI SDK 7の変更点と、開発・実行・監視の各フェーズで何が使えるようになったかを整理します。
この記事でわかること
- AI SDK 7で追加された主要機能の全体像
- 本番運用で効くツール承認・耐久実行・タイムアウトの仕組み
- MCP AppsやHarnessAgentなど、外部連携の拡張点
- v6からの移行で押さえるべき要件
AI SDK 7は「デモから本番へ」を意識した更新
AI SDKは、OpenAIやAnthropic、Googleなど複数プロバイダー向けのTypeScript向けSDKです。チャット生成やツール呼び出しに加え、エージェントのループ制御まで一つのAPIで扱えます。Vercelのオープンソースエージェント基盤「eve」も、このSDK上に構築されています。
これまでのAI SDKは、モデル呼び出しとUI連携が中心でした。v7では「開発(Develop)」「実行(Run)」「統合(Integrate)」「監視(Observe)」「テキスト以外(Beyond text)」の5領域に機能を整理し、長時間稼働するエージェントを本番環境で回す前提のAPIが揃いました。
開発フェーズ:推論制御とコンテキスト管理
プロバイダー横断の推論制御
推論(reasoning)対応モデルは、OpenAI・Anthropic・Googleなどプロバイダーごとに設定方法が異なります。AI SDK 7ではgenerateTextとstreamTextにトップレベルのreasoningオプションを追加し、reasoning: 'high'のように一行で推論強度を指定できます。OpenAI、Anthropic、Google、Groq、xAI、Bedrock、DeepSeekなど主要プロバイダーに対応しています。
ツールコンテキストとランタイムコンテキスト
サードパーティ製ツールにAPIキーを渡す場面では、エージェント全体の状態を丸ごと渡す必要はありません。v7では各ツールにcontextSchemaを定義し、toolsContextでツール単位の設定を注入できます。
一方、runtimeContextはエージェント全体で共有する状態用です。prepareStepや承認関数、ライフサイクルコールバック、テレメトリまで同じコンテキストが流れ、ステップごとにプロンプトやモデルを切り替えるロジックをエージェント内に閉じ込められます。
ファイル・スキルのアップロード
PDFや画像を毎回インライン送信すると、マルチステップ実行で帯域を無駄に消費します。uploadFileはファイルを一度アップロードし、以降はプロバイダー参照オブジェクトで再利用します。Anthropicのコード実行環境向けには、同様のパターンでuploadSkillも追加されています。
MCP AppsとターミナルUI
MCP(Model Context Protocol)は、エージェントと外部ツールを接続する標準プロトコルです。v7のMCP Apps対応では、モデルに見せるツールとアプリ専用ツールを分離し、サンドボックス化されたiframe内にアプリUIを描画できます。JSON-RPCブリッジでツール・リソース・表示更新を橋渡しする構成です。
開発中の動作確認には@ai-sdk/tuiが使えます。runAgentTUI({ agent })で数行のコードから、推論・ツール・Markdown表示付きの対話型ターミナルUIを起動できます。
実行フェーズ:承認・耐久性・タイムアウト
エージェントレベルのツール承認
ファイル削除や課金処理など、実行前に人間の確認が必要なツール向けに、v7はエージェントレベルのツール承認を追加しました。ToolLoopAgent、generateText、streamTextでtoolApprovalを設定し、特定ツールにuser-approvalを要求したり、関数で自動承認・拒否を分岐できます。
高リスクなフローでは、HMAC署名付き承認や入力の再検証も選べます。WorkflowAgent向けには、ツール定義のneedsApprovalでワークフローを一時停止し、ユーザーが数時間後に承認しても処理を再開できます。
WorkflowAgentによる耐久実行
デプロイやプロセス再起動のたびにエージェントが最初からやり直す問題は、長時間タスクの実運用で致命的です。@ai-sdk/workflowパッケージのWorkflowAgentは、ステップ間の実行状態を永続ストレージに保存します。再起動・中断・遅延承認を跨いでエージェントを再開できます。
ToolLoopAgentがインメモリ実行に対し、WorkflowAgentはワークフロー上で動き、ツール実行ごとに自動リトライが効きます。ストリーミング、承認、テレメトリもワークフローステップ境界を越えて維持されます。
タイムアウトとサンドボックス
エージェントは単一リクエストより失敗パターンが多いです。v7は合計時間・ステップ単位・チャンク受信・ツール実行ごとのタイムアウトを第一級APIとして提供し、中断理由はTimeoutErrorとしてストリームとUIプロトコルに伝播します。
シェル実行やファイル操作を伴うツールにはSandboxSession抽象化が追加され、ローカル開発・CI・本番で実行環境を切り替えやすくなりました。Vercel Sandboxなどのサンドボックスプロバイダーと組み合わせて使います。
外部ハーネス統合と監視
HarnessAgent
Claude Code、Codex、Deep Agents、OpenCode、Piといった既存のエージェントハーネスを、AI SDKのAgentインターフェース経由で呼び出せます。HarnessAgentはサンドボックス、カスタム指示、スキル、ツールを設定でき、useChat()やTUIともそのまま連携します。セッションの一時停止・再開、ターン途中の中断・再開にも対応しています。
テレメトリとパフォーマンス統計
v7ではテレメトリをアプリ起動時に一度registerTelemetryで登録する方式に刷新しました。@ai-sdk/otelパッケージでOpenTelemetry連携し、Datadog、Langfuse、Sentryなど主要オブザーバビリティツール向けの統合が用意されています。
Node.jsのdiagnostics_channel経由でai:telemetryチャンネルにもイベントを発行します。ステップごとの応答時間、初回出力までの時間、出力トークン/秒といったパフォーマンス統計もfinalStepから取得できます。
テキスト以外:リアルタイム音声と動画生成
実験的機能として、OpenAI・Google・xAI向けのプロバイダー非依存リアルタイムWebSocketセッションを追加しました。experimental_useRealtimeフックでブラウザから直接接続し、音声文字起こしやクライアント側ツール呼び出しに対応します。
動画生成はexperimental_generateVideoで、fal、Google AI Studio、Google Vertex、Replicateなど複数プロバイダーに対応しています。音声合成(generateSpeech)と文字起こし(transcribe)は安定版APIとして提供されています。
v6からの移行で押さえる点
AI SDK 7には破壊的変更が2点あります。Node.js 22以上が必須です。ネイティブfetchやAsyncLocalStorageの改善に依存するため、旧LTSにはバックポートされません。CommonJSのrequire()は非対応で、ESM(import構文または.mjs)への移行が必要です。
移行作業はnpx @ai-sdk/codemod v7で大部分を自動化できます。systemオプションはinstructionsに、onFinishはonEndに改名されています。OpenTelemetry設定は@ai-sdk/otelへ分離され、グローバル登録方式に変わりました。
既存プロジェクトへの影響
v6までのコードはそのまま動きますが、本番エージェント向けの新APIを使うには段階的な移行が現実的です。まずNode.js 22とESM化を済ませ、codemodで機械的な変更を適用し、ツール承認やruntimeContextの配置など意味的な変更を手動で確認する流れが推奨されています。
AI SDK 7は、エージェント開発を「動くプロトタイプ」から「監視可能な本番サービス」へ引き上げる更新です。推論制御やMCP Appsで開発体験を整えつつ、WorkflowAgentとツール承認で長時間タスクの信頼性を担保する構成になっています。
