Y Combinator CEO の Garry Tan が、自身の「第二の脳」をオープンソースとして公開した。GBrain は AIエージェントに永続的な記憶を与えるナレッジ管理システムだ。2026年4月9日のリリースから24時間で GitHub スター数は4,800を超え、現在7,300以上に達している。
AIエージェントは賢いが、会話が終われば全てを忘れる。毎回同じ背景を説明し直す手間に、もどかしさを感じたことはないだろうか。
この記事でわかること:
- GBrain の仕組みと3層アーキテクチャ
- 30以上の MCP ツールで何ができるのか
- 他のエージェントメモリツールとの違い
AIエージェントの「記憶喪失」問題を解決する
AIエージェントはセッションをまたぐと文脈を失う。過去の会議内容、人物関係、プロジェクトの経緯。人間なら当然覚えている情報を、エージェントは毎回ゼロから教わる必要がある。
GBrain はこの問題に対し、エージェント自身が読み書きする「脳」を提供する。Markdown ファイルを Git リポジトリで管理し、Postgres + pgvector でハイブリッド検索を行う。エージェントは会話のたびにこの脳を参照・更新し、知識を蓄積していく。
3層アーキテクチャの設計思想
GBrain は以下の3層で構成される。
1. Brain Repo(知識の源泉)
全ての知識は Markdown ファイルとして Git リポジトリに保存される。プロプライエタリなデータベースではなく、人間が直接読み書きでき、差分管理もバージョン管理も効く。各ページは「インテリジェンスブリーフィング」のように設計されている。上部にはコンパイルされた事実(証拠が変われば書き換わる)、下部には追記のみのタイムライン(情報の出典記録)が並ぶ。
2. GBrain Retrieval(検索エンジン)
デフォルトでは PGLite(WASM 上で動く組み込み Postgres 17.5)を使う。Docker も Supabase も不要で、セットアップは約30分。7,000ファイルのインポートに約30秒、1,000ページのベクトル化に約1分という軽量さだ。キーワード検索とセマンティック検索を融合したハイブリッド検索により、正確なエンティティ名とあいまいなテーマの両方を同時に探せる。
3. AI Agent Skills(エージェント操作)
OpenClaw や Nous Research の Hermes Agent と直接統合される。エージェントは脳の読み書きを通じて自律的に知識を蓄積する。
30以上の MCP ツールでできること
GBrain は Model Context Protocol(MCP)経由で30以上のツールを公開する。Claude Code、Cursor、Windsurf などの AI クライアントからすぐに利用できる。
主なツール:
get_page/put_page— ページの読み書きsearch/query— ハイブリッド検索とクエリadd_link/traverse_graph— 知識グラフの構築と探索sync_brain— ファイルとデータベースの同期file_upload— PDF や動画など複数形式の取り込み
注目すべきは「Dream Cycle」機能だ。夜間に自動で会話をスキャンし、未検出のエンティティを発見し、欠落した相互参照を補完する。朝起きたとき、エージェントの脳は一晩で賢くなっている。
Garry Tan が13年間使い続けたリアルなシステム
多くのナレッジ管理ツールは「作者自身が使わない」という問題を抱える。GBrain は違う。Tan 自身が13年間蓄積してきたデータがそのまま設計の土台になっている。
実運用の規模感:
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| Markdown ファイル | 14,700以上 |
| 人物ページ | 3,000以上 |
| 会議トランスクリプト | 280以上 |
| オリジナルアイデア記録 | 300以上 |
| カレンダーデータ | 13年分 |
| 稼働スキル | 40以上 |
| 継続クローンジョブ | 20以上 |
デモ用のクリーンなプロジェクトではなく、日常業務で鍛え抜かれたシステムだからこそ、実用的な設計判断が随所に表れている。
他のエージェントメモリとの違い
GBrain の前身は MemPalace というシステムで、LongMemEval ベンチマークで高いスコアを記録した。ただし、Hacker News 上では「リランキングなしのトップ10検索では88.9%」という指摘もあり、ベンチマーク結果は検索設定に依存する点には留意が必要だ。
他のメモリフレームワークとの最大の違いは、データ形式の透明性にある。GBrain は全てを Markdown + Git で管理する。ベンダーロックインがなく、人間がいつでも直接読み書きできる。エージェントが壊れても、知識はプレーンテキストとして残る。
技術スタックとセットアップ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 言語 | TypeScript(98.7%) |
| ランタイム | Bun |
| DB | PGLite(デフォルト)/ Supabase / PostgreSQL |
| 検索 | pgvector(ハイブリッド検索) |
| ライセンス | MIT |
| 料金 | 無料(OSS) |
セットアップは3通り:
- エージェント経由(推奨) :
INSTALL_FOR_AGENTS.mdの指示に従い、エージェント自身がセットアップを実行 - スタンドアロン :
git clone→bun install→gbrain init - MCP 統合 : Claude Code や Cursor の設定 JSON にエントリを追加
1,000ファイルを超えたら gbrain migrate --to supabase でマネージド Postgres に移行できる。
まとめ
GBrain は「AIエージェントに脳を与える」というシンプルな思想を、Markdown + Git + Postgres という堅実な技術スタックで実現したOSSだ。Garry Tan が13年間の実運用で磨き上げた設計は、ナレッジ管理ツールにありがちな「机上の空論」ではない。
エージェントに長期記憶を持たせたい開発者にとって、まず試す価値のある選択肢だ。