メカニカルキーボードメーカーのKeychronが、自社製品の工業デザインファイルをGitHubで無料公開しました。キーボード・マウスあわせて100モデル以上、640を超えるCADファイルが誰でもダウンロードできます。キーボード業界でここまでの規模で設計データを公開した例はほとんどなく、SNSやRedditで大きな話題になっています。
この記事でわかること
- Keychronが公開した設計ファイルの中身と対象製品
- ライセンス条件(何ができて何ができないのか)
- キーボードModder・自作ユーザーにとっての実用的な価値
公開された設計ファイルの中身
2026年4月上旬、Keychronは「Keychron-Keyboards-Hardware-Design」というGitHubリポジトリを公開しました。
含まれるファイル形式は以下の通りです。
- STEP : 3D CADソフトで開ける立体モデル。ケース形状やフル組立モデルを確認できる
- DXF : 2Dの切断用データ。CNCやレーザーカッターに直接投入できる
- DWG : エンジニアリング図面
- PDF : 図面の閲覧用
各製品ごとに、ケースファイル、プレートファイル、スタビライザー設計、エンコーダーマウント、キーキャッププロファイル(OSA/KSA)、フル組立モデルがそろっています。FreeCAD、Fusion 360、SolidWorksなど主要なCADソフトで開けます。
対象製品ライン
カバー範囲は広く、Keychronの主要ラインをほぼ網羅しています。
キーボード
- Q シリーズ / Q Pro / Q HE
- K Pro / K Max / K HE
- V Max
- P HE
- L シリーズ
マウス
- M シリーズ / G シリーズ(11モデル)
リポジトリは継続的に更新されており、4月11〜12日にもP6 Ultra 8K、K2 QMK、K10 QMKなどが追加されています。
なぜKeychronはこれを公開したのか
メカニカルキーボードのカスタマイズコミュニティでは、長年「非公式の測定値や逆算した寸法」に頼って自作パーツを作る状況が続いていました。正確な寸法データがないため、CNCで削ったカスタムケースが数ミリずれて合わない、といった問題が日常的に起きていたのです。
Keychronは公式の製造グレードCADデータを提供することで、この課題を根本から解決しました。DXFファイルを使えば、ブラス・カーボンファイバー・FR4といった素材で交換用プレートを正確に製作できます。
ライセンス|「オープンソース」ではない点に注意
報道では「オープンソース化」と表現されることもありますが、正確にはソースアベイラブル(source-available)です。GitHubの定義でも、この2つは明確に区別されています。
- オープンソース : ソースコードへのアクセスに加え、再配布・派生物の配布が自由
- ソースアベイラブル : ファイルの閲覧・利用は可能だが、制限がある
Keychronのライセンスでは以下のように整理されています。
できること
- 個人利用・教育目的での利用
- 購入済み製品のカスタマイズ
- 互換アクセサリ(ケース、プレート、交換パーツなど)の設計・製造・販売
- コミュニティ向けの非営利Mod
できないこと
- キーボード・マウス本体のコピー製造・販売
- 実質的に同一の製品を作って販売すること
- Keychron商標を自社ブランドとして使用すること
つまり「カスタムケースを作って売る」はOKですが、「Keychronのキーボードをそのまま複製して売る」はNGです。アクセサリメーカーにとっては十分に実用的なライセンスといえます。
PCB設計は非公開
注意すべき点として、基板(PCB)の設計データは含まれていません。そのため、設計ファイルだけでゼロからキーボードを完成させることはできず、基板は既存のKeychron製品を使う必要があります。
ハードウェアの外装設計を公開しつつ、電子回路の核心部分は手元に残す。ビジネスとコミュニティ貢献のバランスを取った判断です。
キーボード自作・Modコミュニティへの影響
この公開がもたらす実用的な価値は明確です。
- カスタムケース制作 : STEP/DXFデータから正確なケースを3DプリントやCNCで作れる
- 交換プレートの製作 : DXFをレーザーカッターに投入し、好みの素材でプレートを切り出せる
- CAD学習の教材 : 実際に製品化されたプロの設計を無料で学べる
- アクセサリビジネス : 互換パーツの設計・販売がライセンス上認められている
Keychronは公式DiscordでModコミュニティの形成も進めており、単なるファイル公開にとどまらないエコシステムの構築を目指しています。
まとめ
Keychronの設計ファイル公開は、完全なオープンソースではないものの、キーボードメーカーとしては異例の規模です。製造グレードのCADデータを640ファイル以上、無料で提供している点は高く評価できます。PCBが非公開という制限はあるものの、ケースやプレートのカスタマイズが主目的のModderにとっては十分すぎる情報量です。リポジトリは現在も更新が続いているため、今後さらに対象製品が増える見込みです。