ローカルLLMの推論速度は、GPUより先にメモリ帯域で頭打ちになる。AMDが新メモリ規格「EXPO 1.2」を展開し始めた。CUDIMM DDR5への対応、ULL(超低レイテンシ)モードの追加、中国製メモリベンダーの拡充が主な内容だ。ただし、恩恵を最大限に受けられるのは次世代アーキテクチャ「Zen 6」搭載CPUから。現行Ryzen環境でどう変わり、LLM推論に何をもたらすのかを整理する。
この記事でわかること:
- EXPO 1.2が追加する3つの変更点
- CUDIMMとUDIMMの技術的な違い
- 現行RyzenでCUDIMMを使うと何が起きるか
- ローカルLLM推論においてメモリ帯域が重要な理由とZen 6での変化
EXPO 1.2登場の背景
AMDのDDR5向けワンクリックOCプロファイル技術「EXPO(Extended Profiles for Overclocking)」がバージョン1.2に更新された。IntelのXMPに相当するが、AM5プラットフォーム向けに最適化されている。ASUSが2026年4月24日にX870シリーズ向けのBETA BIOS「2301」を公開し、最初にEXPO 1.2サポートを有効化した。MSIなど他社も続く見込みで、既存の600・800シリーズマザーボードへも順次展開される。
EXPO 1.2の3つの変更点
CUDIMMとMRDIMM対応
CUDIMM(Clocked Unbuffered DIMM)は、モジュール上にCKD(Client Clock Driver)を搭載したDDR5の新規格だ。DDR5は高速化するほど信号完全性の問題が生じるが、CKDがクロック信号を安定させることで8000 MT/s超の動作を可能にする。従来のUDIMMでは達成しにくい領域だ。
EXPO 1.2では、CUDIMMに加えてMRDIMM(Mini RDIMM)とCSODIMM(Clocked SO-DIMM)へのサポートも加わる。
ULL(Ultra-Low Latency)モード
「ULL(Ultra Low Latency)モード」が新設される。同じ6000 MT/sの標準EXPOキットと比べて、5〜7nsのレイテンシ削減が得られる。ゲームや小規模LLMのKVキャッシュ操作のように、メモリレイテンシが直接影響する用途に効果が出る。
中国製DDR5メモリへの対応拡大
DRAM価格高騰と供給不足への対応として、中国製メモリメーカー3社のEXPOプロファイルが追加される。RAMXEED Limited、Rui Xuan(旧Rei Zuan)、Fujitsu Synaptics の3社だ。コスト重視の構成でも正式なEXPOプロファイルが使いやすくなる。
現行RyzenでCUDIMMは「バイパスモード」
重要な制約がある。現行のAM5 Ryzen CPU(Zen 5以前)のIMC(Integrated Memory Controller)はCUDIMMに対応していない。EXPO 1.2 BIOSでCUDIMMを装着しても「バイパスモード」で動作し、CKDが無効化される。実効的なメモリ速度は通常のUDIMM相当の約6000 MT/sにとどまる。
MSIの社内オーバークロッカーToppcは「CKD設定は有効化フラグを定義するだけで、IMCが対応していなければ機能しない」と述べている(参考)。現行Intel プラットフォームも同様の制約があり、CUDIMMの定格速度を引き出すには次世代CPUが必要だ。
Zen 6で完全対応、8000 MT/s超えへ
CUDIMMの完全サポートは次世代「Zen 6(AM5)」搭載CPUで実現する。Zen 6のIMCはCKD制御に対応し、CUDIMM DDR5を定格スピードで動作させる。
現行Zen 5では約6000 MT/sが標準的な動作速度だが、Zen 6とCUDIMMの組み合わせで8000 MT/s超が安定運用の射程に入る。OC特化構成ではRyzen 8000G APUで10,000 MT/s超を達成した報告もあり、帯域のポテンシャルは確認済みだ。Computex 2026では対応メモリキットの正式発表も予定されている。
ローカルLLM推論への影響
ローカルLLMの推論速度はメモリ帯域に強く依存する。1トークン生成するたびにモデルの重みとKVキャッシュをメモリから読み出す必要があり、この操作速度がボトルネックになる。iGPU(統合GPU)環境ではVRAMがなく、システムメモリ帯域がそのまま推論速度に直結する。
AMDの技術文書では、LPDDR5X 8000 MT/s・96GBの統合メモリを持つRyzen AI Max+搭載のFramework Desktopを4台並べ、1兆パラメータ規模のLLMをローカルで動作させた事例が報告されている。この構成の前提はメモリ帯域の確保にある。Zen 6でCUDIMM DDR5が8000 MT/s超で動作するようになれば、より一般的なデスクトップ構成でも同等の帯域環境が整う。
Zen 6を待つべきかどうか
現時点でCUDIMMメモリキットを購入しても、Zen 5環境ではバイパスモードで動作するためUDIMMとほぼ同じ速度しか出ない。現行環境での恩恵はEXPO 1.2のULLモードによるレイテンシ改善に限られる。
ローカルLLM推論の帯域強化を目的とするなら、Zen 6 CPUの発売タイミングに合わせてCUDIMMキットを選ぶのが合理的だ。Computex 2026での発表以降、製品ラインナップが明確になる見込みだ。