AIエージェントがGPUで考え、CPUで動く。この分業が、半導体業界の構造を変えつつある。

2025年9月にNvidiaとIntelが発表した共同開発は、2026年5月時点でも着実に進んでいる。Intel CEOのLip-Bu Tan氏がカーネギーメロン大学でJensen Huang氏の名誉博士号授与式に出席し、「exciting new products」に向けて作業を続けていると改めて述べた。同時期には、IntelがApple向けチップを製造する予備的合意の報道も出ている。

この記事でわかること:

  • IntelとNvidiaが共同開発する2種類の製品の仕組み
  • NVLink Fusionを使ったCPU/GPU密結合の設計思想
  • Intel x86 RTX SoCがPCに何をもたらすか
  • IntelとAppleの製造契約が持つ意味

AI エージェント時代にCPUが重要になった理由

生成AIが普及し始めた頃、主役はGPUだった。大規模モデルの訓練も推論も、Nvidiaが担った。

2025年以降、AI活用の形が変わった。AIエージェントが企業システムの中でタスクを実行するようになると、GPUだけでは完結しない場面が増えた。ファイルを移動する、スプレッドシートを更新する、アプリケーションを横断して複数の処理を順にこなす――こうした「実行系」の処理はCPUが担う。GPUはモデルの思考を動かし、CPUはその指示を形にする。

この構造がIntelへの関心を再び高めた。AI需要の恩恵がGPUに集中していた時代から、CPUにも波及し始めている。

IntelとNvidiaが発表した2つの共同製品

2025年9月18日、NvidiaとIntelは2種類の共同製品を発表した。NvidiaはIntelの普通株に50億ドル(1株あたり23.28ドル)を投資する。

データセンター向け:NVLink Fusion接続のカスタムCPU

データセンター市場では、IntelがNvidiaのAIインフラプラットフォーム向けにカスタムx86 CPUを設計・製造する。このCPUはNvidiaの高帯域幅インターコネクト「NVLink Fusion」で接続し、NvidiaのGPUと密結合させる形になる。

NVLink Fusionを使うことで、CPU-GPU間のデータ転送の遅延が下がり、スループットが上がる。AI推論のリクエストをNvidiaのGPUが処理し、その前後の入出力や制御フローをIntelのCPUが担う構成だ。ハイパースケールのデータセンターだけでなく、エンタープライズ環境にも対応する。

これまでデータセンターのAIサーバーは、NvidiaのGPUにAMD製またはIntel製の汎用CPUを組み合わせる構成が多かった。今回の協業では、NvidiaのAIスタックに合わせて最適化されたカスタムCPUをIntelが設計する。接続インターフェースがNVLinkで統一されるため、汎用接続規格(PCIeなど)を使う場合と比べてデータ転送効率が大きく改善する。

PC向け:Intel x86 RTX SoC

PC市場では、IntelがNvidiaのRTX GPUチップレットを統合したx86システムオンチップ(SoC)を製造する。CPUチップレットとNvidia RTX GPUチップレットをNVLink経由で接続し、1つのパッケージに収める製品だ。

NvidiaがApple Siliconのようにx86 CPUを自社で設計するのではなく、IntelのCPU設計力とNvidiaのGPU設計力を組み合わせる形を採った。アナリストは最初の製品が2026年末から2027年にかけて登場すると見ている。

PCにおけるCPU内蔵GPUは、これまでIntelのiGPUやAMD APUが担ってきた。RTX相当のGPUをSoC上に載せることで、外付けGPUに近い性能を省スペース・省電力で実現できる可能性がある。薄型ノートPCや小型デスクトップへの搭載が期待される。

IntelとAppleの製造契約

協業の進行と並行して、Intelのファウンドリ事業でも大きな動きが出た。

2026年5月8日、Wall Street Journalは、AppleとIntelが一部のApple製品向けチップをIntelが製造する「予備的な合意」に達したと報じた。IntelのIntel 18Aプロセスを使う可能性が示されており、早ければ2027年に量産が始まるという。これが実現すれば、IntelのFoundry事業として最大の外部顧客獲得になる(参考)。

AppleはほぼすべてのチップをTSMCに発注している。TSMC依存を分散させる目的もあるが、米国内での半導体製造を増やす政策的な背景もある。IntelのFoundry部門は、2026年Q1に54億ドルの売上を記録し、前年同期比16%増だった。外部顧客の獲得がさらなる成長の鍵になっている。

Intel復権の構図

2010年代後半から2020年代前半にかけて、Intelは苦境が続いた。製造プロセスの遅れからTSMCに差をつけられ、CPU市場でもAMDに追い上げられた。

転機は複数のタイミングで訪れた。AIエージェントの普及でCPU需要が戻ってきたこと、NvidiaとのNVLink協業でデータセンター向け事業の方向性が定まったこと、そしてAppleのような大口顧客のFoundry受注が視野に入ってきたこと。この3つが重なり、Intelの立ち位置が変わりつつある。

Jensen Huang氏の言葉を借りれば「AIはコンピューティングスタック全体を根本から作り直している」。そのスタックの中でNvidiaのGPUがモデルを動かし、IntelのCPUが実行を担う形が固まりつつある。

NvidiaとIntelの協業が製品として実を結ぶのは2026年末以降の見通しだ。AIエージェントが企業環境に深く浸透するにつれ、GPU/CPU統合の動きは半導体業界全体の中心的なテーマになっていく。