自宅のGPUが遊んでいる一方で、AIエージェントの運用費は膨らみ続けています。分散コンピュート基盤のNuNetは、この両方の課題に同時に答えます。

この記事では、NuNetの仕組みと、OpenClaw・Hermes Agentを低コストかつ隔離環境で動かす方法、未使用計算資源の収益化の流れを整理します。

この記事でわかること

  • NuNetが分散コンピュートの課題をどう解くか
  • OpenClawとHermes AgentをNuNet上で動かす実例
  • 計算資源の提供者・利用者それぞれの始め方

https://www.nunet.io/

クラウド依存と遊休GPUが同時に起きている

AIエージェントの本格運用では、ファイル操作やコマンド実行を伴うため、ホストPCに直接入れるのはリスクが高いです。Hermes Agentの公式ドキュメントでも、本番運用ではDockerやSSHなど隔離バックエンドの利用が推奨されています。別マシンやコンテナを用意するほど、月額のインフラ費が積み上がります。

一方、世界中には使われていないGPUやCPUが散在しています。Akash Networkのような分散GPUマーケットプレイスは、ノードを一覧から選んで手動デプロイする方式が中心です。GPU特化型の設計も多く、エッジ端末やラズベリーパイまで含めた統合オーケストレーションには向きません。

NuNetは「マーケットプレイス」ではなくオーケストレーションプロトコル

NuNetは、GPU・サーバー・エッジ端末・データセンターなど異なるハードウェアをつなぐピアツーピアの分散コンピュートプロトコルです。2026年3月2日に本番ネットワーク「Network Live」が稼働し、SingularityNETのインキュベーションから7年以上の研究を経て実装されました。コードベースはApache 2.0で公開されています。

最大の違いは、利用者がノードを選ぶのではなく、ワークロードの要件(レイテンシ、場所、GPU種別、コスト)を記述するとプロトコルが最適な計算資源を自動マッチングする点です。マッチング・検証・決済が一つのプロトコル層に統合されており、複数の所有者・拠点・信頼境界をまたいだワークロードを前提に設計されています。

中核コンポーネントは次の2つです。

  • NuNet Appliance — Ubuntu 24.04ベースのパッケージ環境。Web UIからネットワーク参加、リソース管理、ワークロード展開ができます
  • Device Management Service(DMS) — 各マシンに入るコアソフトウェア。Linux・macOS・Windowsで動作し、計算資源の提供または消費のどちらにも対応します

決済はNTXユーティリティトークンで行われ、EthereumとCardanoの両チェーンでピアツーピア決済に対応しています。ステーブルコインなど他資産での決済もプロトコル上サポートされています。

OpenClawとHermes Agentの導入例

2026年6月、開発者のPete氏がNuNetのJen Bourke氏と対談し、プラットフォームのデモを公開しました。コミュニティでは、OpenClawとHermes AgentをNuNet上のコスト効率のよい隔離環境に載せる事例が増えています。

NuNet公式の実運用デモでは、次の構成が公開されています。

  • OpenClaw + Qwen + Ollama — クラウドAPIを使わず、5分以内にプライベートAIエージェントをデプロイ。データは提供者のマシンから出ません
  • Hermes Agent + Telegram — Applianceからワンクリックで展開可能なアンサンブルテンプレートがGitLabに公開されています
  • Hermes Agent + Gemma 4(26B MoE) — 消費者向けRTX 3060上でローカル推論を実行するエッジAIのデモ

OpenClawはNode.js製のゲートウェイ型エージェントで、WhatsAppやSlackなど50以上のメッセージングチャネルを統合します。Hermes AgentはNous Researchが開発するPython製エージェントで、タスク完了後に自分でスキルを生成する自己改善ループが特徴です。Alibaba Cloudコミュニティの調査では、両者を併用するユーザーが18%に達しており、OpenClawがメッセージルーティングと軽タスク、Hermesが複雑な実行と長期記憶を担う構成が一般的です(参考)。

NuNetのゼロトラスト設計は、こうしたエージェント運用と相性がよいです。各マシンと参加者に暗号学的IDが付与され、信頼境界をまたぐ計算も検証・隔離・監査可能な形で実行されます。ホストPCを汚さずにエージェントを動かしたい開発者にとって、専用マシンをNuNet経由で確保する選択肢になります。

未使用計算資源の収益化の流れ

計算資源の提供者は、NuNet Applianceをダウンロードしてマシンにインストールします。GPUサーバー、CPUのみのサーバー、ラズベリーパイ、クラウドインスタンス、データセンターラックなど、ハードウェアの種類を問いません。メール認証後、自動的にネットワークに参加できます。

ワークロードがマッチングされると、完了した計算量に応じてNTXで直接報酬を受け取ります。中間業者を挟まないピアツーピア決済がプロトコルに組み込まれているため、請求書のやり取りは不要です。

NuNet公式は、Applianceを個人情報や機密データを含むマシンには入れないよう注意喚起しています。提供者側は、可能であればNuNet専用マシンを使うことが推奨されています。

ワークロードの展開側(オーケストレーター)は、現時点では承認制です。NuNetチームが提供者のリソースを保護するため、オーケストレーターごとに直接連携しています。ネットワークの成熟に伴い、段階的に開放される予定です。

2026年6月時点で、ネットワークに接続されたデバイスは36台、スマートビルディング向けエネルギーAI(HOMEPUTE369)、AR・ロボティクス(Auki Labs / Posemesh)、データセンター管理(Serverista)など実ワークロードが稼働しています。

Akashなど既存の分散コンピュートとの違い

観点 NuNet Akash Networkなどのマーケットプレイス型
リソース選択 プロトコルが自動マッチング 利用者がノードを選んで手動デプロイ
対応ハードウェア GPU・CPU・エッジ・IoTまで統一プロトコル GPU中心の設計が多い
所有者構成 複数組織・拠点のマルチオーナー前提 同一オペレーター配下のGPUプール型が多い
決済 マッチングと決済が同一プロトコル層 ジョブ完了後の決済が中心

AkashはH100をAWS比で約3分の1の価格で提供するなど、GPUレンタルの価格競争力に強みがあります。NuNetは、エージェントやロボットなど「場所と信頼境界がバラバラな計算」を自動でつなぐ用途に焦点を当てています。GPUを安く借りたいだけならAkashが向き、異なる所有者のマシンを横断してワークロードを動かしたいならNuNetの設計が合います。

始め方と今後の見通し

計算資源を提供する場合は、NuNet Applianceをインストールし、Web UIからリソースを登録します。ワークロードを動かす場合は、ドキュメント(docs.nunet.io)を参照し、オーケストレーターとしての承認申請が必要です。

OpenClawとHermes Agentのデプロイ用テンプレートはGitLabに公開されており、Applianceからワンクリックで展開できるアンサンブルも用意されています。エージェント運用のコストを抑えつつ隔離環境を確保したい開発者、遊休中のGPUを収益化したい個人や企業の双方に、分散コンピュートの新しい選択肢として注目に値します。