2004年の名作FPSが、Steamのインストールなしでブラウザタブの中で動き始めました。

この記事では、高校生開発者によるHalf-Life 2のWeb移植の仕組み、実際のプレイ方法、既知の不具合、著作権上の注意点まで整理します。

  • クラウド配信ではなく、WebGL 2でブラウザ内ローカル実行される
  • 約3か月の個人開発で、ストーリー完走まで動作する
  • 顔モーフやBink動画など、ブラウザ制約による欠落がある
  • 漏洩ソースとゲームアセット配信を含み、法的リスクもある

https://hl2.slqnt.dev/

何が起きたか

2026年6月25日ごろ、開発者slqnt(スラントと読む)がHalf-Life 2のブラウザ移植を公開しました。サイトを開き、数秒〜数十秒の読み込み後に「New Game」からそのままプレイできます。GeForce Nowのようなクラウドストリーミングではなく、PCのブラウザ上でゲーム本体が動きます(参考)。

slqntは高校生で、プログラミング歴は約5年と述べています。開発期間は約3か月で、Xでも自身の投稿で紹介しました(参考)。協力者として98006の名前も複数の報道に登場します。

なぜブラウザで動くのか

移植の土台は、開発者weliveinhellが公開したPortalのブラウザ版です。これはGitHubのnillerusr/source-engineをベースにしており、2018年に漏洩したTeam Fortress 2向けSourceエンジンのソースコードをコミュニティが改造したものです。READMEにも「Source code is based on TF2 2018 leak」と明記されています。

slqntはPortal版のコードにHalf-Life 2のアセットを読み込ませるところから着手しました。最初はそのままでは動かず、バグとアセット不整合を一つずつ潰しています(参考)。

描画の要はToGLESという仕組みです。エンジンがOpenGL ESで描画し、Emscriptenがその呼び出しをWebGL 2に変換します。描画パイプライン側の移植負荷は比較的小さく、難所はゲームデータの互換性に寄りました(参考)。

Steam上の現行版Half-Life 2のアセットは新しすぎて、この古いエンジン版では使えません。slqntはSteamのsteam_legacyブランチからVPKを展開し、マップごとに.dataファイルへ分割して、ブラウザが段階的に読み込める形に整えています(参考)。

パフォーマンスと動作環境

WebGL 2対応のモダンブラウザが前提です。HotHardwareの検証では、Ryzen 9 9900Xの内蔵グラフィックスで1080p・2x MSAA時にほぼ160fpsで動いたと報じています(参考)。Club386のテストでも、ネイティブアプリではないにもかかわらず100fps超えを記録しています(参考)。

マップ遷移時はアセットをその場でダウンロードするため、回線速度によっては背景読み込みでカクつく場合があります。モバイルブラウザでも起動報告はありますが、キーバインド未対応のため、実用的にはマウス・キーボードかゲームパッド接続が現実的です(参考)。

既知の不具合と欠落機能

「ほぼ動く」が正確な表現です。顔モーフ(Facial Animation)は無効化されており、キャラクターの目のシェーダーも壊れているため、NPCが不気味な見た目になります。slqnt自身も「直すのが面倒」と述べています(参考)。

Bink形式の動画はブラウザが再生できないため、オープニングのモニター映像やシティ17の巨大スクリーンなど、動画テクスチャ依存の演出は表示されません。水のシェーダー不具合、メディキットの動作不良、ジャンクヤードでアリクスがグラビティガンを渡さないソフトロックなど、開発中に次々と修正された問題も報じられています(参考)。

Braveブラウザでは音声再生が不安定だったとの報告もあります。現時点でキー設定の変更はできません。

著作権と今後の見通し

法的な論点は二つあります。ひとつは2018年漏洩のSourceエンジンソースを土台にしている点、もうひとつはサーバー側からHalf-Life 2のアセットを配信している点です。HotHardwareは「legally dubious(法的にあいまい)」と評し、ValveがTF2ソースのGitHub公開には手を出していない一方、アセット配信には反応する可能性があると指摘しています(参考)。

昨年話題になったGTA Vice Cityのブラウザ移植は、Take-TwoのDMCA申立て後にユーザー自身のゲームデータ持ち込み方式へ変更されました。Half-Life 2版も同様の圧力を受け、サイトが閉じる可能性は無視できません(参考)。

slqntはHalf-Life 2 Episode 1とEpisode 2の移植にも着手すると述べています。ただし現行のHalf-Life 2本体で未修正の問題が残る中、次作に進む判断は開発者自身も慎重な姿勢を示しています(参考)。

試すなら今のうちに

ブラウザだけでSourceエンジン製の本格3D FPSが動く事実は、WebAssemblyとWebGL 2の実用性を示す事例です。物理演算、NPCスクリプト、広大なマップを含む2000年代のAAA級タイトルがタブ内で完走できる時点で、技術デモとしての価値は高いと言えます。

一方で、グラフィック欠落や法的リスクははっきりしています。興味があるなら、配信停止の前に一度触っておくのが現実的です。Valve公式の提供ではない点だけは、プレイ前に押さえておいてください。