人員を2割削減した会社で、エンジニアだけが4割以上増えている。Cloudflareの事例は、AIが「仕事を奪う」のではなく「どの仕事を重視するか」を変えていることを示しています。
この記事では、CEOマシュー・プリンス氏が提唱するbuilders・sellers・measurersという3分類と、テック業界全体の採用動向を整理します。
この記事でわかること
- Cloudflareが裁員後もエンジニアを増やした背景
- builders・sellers・measurersの定義と、AIが影響しやすい職種
- テック企業の求人が増えている分野
裁員とエンジニア急増が同時に起きた理由
2026年5月、インターネットセキュリティ企業のCloudflareは全従業員の約20%にあたる1,100人以上を解雇しました。売上は過去最高を更新していた時期の判断です。
一方、BNPパリバのアナリストがLinkedInのデータを分析したところ、エンジニア数は2025年12月の1,308人から1,894人へと45%増加していました(参考)。プリンス氏はこの傾向を認め、人員削減とエンジニア採用の並行は意図的な再編だと説明しています。
解雇の対象はパフォーマンスや単純なコスト削減ではなく、AIを前提とした業務設計への転換が理由です。影響を受けた従業員には2026年末までの退職金、医療保険の延長、8月15日までの株式ベスティングが支給されています。
builders・sellers・measurersという3分類
プリンス氏は、1954年にピーター・ドラッカーが著した『マネジメント』の考え方を土台に、社内の職種を3つに分類しました。Wall Street Journalの寄稿「How I Choose Which Cloudflare Employees to Replace With AI」でも同じ枠組みを展開しています。
builders(ビルダー)は製品を作る人たちです。Cloudflareではエンジニアが該当します。sellers(セラー)は顧客に製品を売る人たちで、信頼関係を築き課題を解決する役割を担います。measurers(メジャラー)は、それ以外の管理・監視・報告を担う職種です。内部監査、収益認識、財務、法務、コンプライアンス、中間管理職、オペレーション、マーケティングの一部がここに入ります。
プリンス氏の主張は明快です。AIはビルダーやセラーを置き換えるのではなく、メジャラーを置き換えやすい、と。
メジャラーが削減の中心になった
Cloudflareの今回の解雇の大半はメジャラーに集中しています。具体的な変更は次のとおりです。
中間管理職はAIによって1人のマネージャーがより多くの直属部下を監督できるようになったため、層を薄くしました。オペレーション部門は1つのグループに統合し、AIが領域ごとの専門知識を補います。財務は自動化を進めて部門を統合しました。マーケティングは「メジャラーが多い部門」として大幅に縮小されています。
内部監査も再設計されました。以前は四半期ごとに数件のビジネスリスクを人間が点検していましたが、AIが全リスクを継続的に監査する体制へ移行しています。プリンス氏は、決算の早期化と経営状況の可視化が過去最高水準に達したと述べています。
ビルダーとセラーはむしろ増える
プリンス氏は「AIがテックの仕事を奪っているわけではない」と断言しています。エンジニアがAIで生産性を上げれば、採用を増やす方針です。「エンジニアが10倍生産的になれば、見つけられる限り採用する」とWall Street Journalに書いています。
セラーも安全圏にあります。予算を決めるのは人間であり、信頼できる相手から買いたいという心理は変わっていない、という判断です。
BNPパリバのデータが示すエンジニア45%増は、この方針の結果として読めます。全体の人員は2割減でも、価値創出に直結する職種への投資は拡大しているのです。
テック業界全体でも求人は増えている
Cloudflareだけの話ではありません。求人プラットフォームTrueUpのデータでは、2026年に入ってテック企業の公開求人は前年同期比14%増えています(参考)。TrueUpは約9,000社の公開企業・スタートアップ・ユニコーンの求人を追跡しています。
ハードウェアエンジニアの求人は52%増と特に伸びています。AIインフラの整備に伴う物理層・システム層の需要が背景にあります。TrueUp創業者のアミット・テイラー氏は、テック業界の動きがあっても採用市場は「安定している」とコメントしています。
プリンス氏自身も「今回のやり方は今後1年で標準になる」と予測しており、他社にも同様の再編が広がる可能性があります。
組織設計への示唆
この3分類は、採用やキャリア設計の実務フレームとして使えます。自分の仕事が「測る・報告する・調整する」側に偏っていないかを点検するきっかけになります。
ただし、すべてのメジャラーが不要になるわけではありません。法務やコンプライアンスの最終判断、倫理的な経営判断は人間の領域が残ります。Cloudflareのように売上成長と人員削減が同時に起きるケースは、米国の公開企業史上でも例が少ないとプリンス氏は認めています。
AI時代の雇用論は「仕事の総数」より「どの機能に人を置くか」の議論へ移っています。測定と報告をAIに任せ、作る人と売る人にリソースを集中させる。Cloudflareの数字は、その方向性がすでに現実の組織変更として進行中であることを示しています。