AppleのVision Proとスマートグラスを率いてきた幹部が、競合のOpenAIへ転じました。AIウェアラブル市場ではMetaが先行し、GoogleやSamsungも参入を迫るなか、人材の動きが各社の戦略を映し出しています。

この記事では、ポール・ミード氏の移籍とその背景、AppleとOpenAIそれぞれのハードウェア計画、Metaとの競争関係を整理します。

この記事でわかること

  • ポール・ミード氏がAppleを離れOpenAIのハードウェア部門へ移る経緯
  • Appleのスマートグラス計画が遅延している現状
  • OpenAIがApple出身者を次々と引き入れる理由
  • Metaの新製品「Meta Glasses」が市場に与える圧力

https://www.pymnts.com/news/artificial-intelligence/2026/apple-smart-glasses-and-vision-pro-boss-leaving-for-openai/

AppleのAIウェアラブル責任者がOpenAIへ

2026年6月26日、Bloombergのマーク・ガーマン氏が報じたところによると、Appleの副社長ポール・ミード氏が今週中に同社を退職し、OpenAIのハードウェア部門に入る見込みです。ミード氏はVision Proのハードウェアエンジニアリングを7年間率い、同社初のスマートグラス開発も担当していました。

OpenAIでは、AIを搭載した消費者向けデバイス群の開発に携わります。同社のハードウェア部門には、元Appleチーフデザインオフィサーのジョニー・アイブ氏、元デザイン責任者のエヴァンス・ハンキー氏、iPhoneやApple Watchの製品デザインを統括していたタン・タン氏らがすでに在籍しており、ミード氏はその一員に加わる形になります。AppleとOpenAIの広報部門は、Bloombergの報道に対しコメントを控えています。

組織再編が引き金となった人事異動

ミード氏の退職は、Appleの経営体制変更と直結しています。ジョン・ターナス氏が次期CEOに指名されたことで、チップ部門責任者のジョニー・スルージ氏がハードウェア最高責任者に昇格し、ハードウェアエンジニアリング部門の再編が進みました。

再編後、ミード氏を含む複数のハードウェア副社長は、スルージ氏に直接報告するのではなく、新設されたハードウェアエンジニアリング副社長トム・マリーブ氏の下に置かれました。Bloombergの報道では、組織階層が一段下がったことで、幹部の一部が立場を低下されたと感じたとされています。ミード氏の後任として、Vision Proとスマートグラスの製品デザインを担当していたフェッチャー・ロスコップフ氏がVision Products Group(VPG)の業務を引き継ぎます。

ミード氏は2010年にiPad部門の要職としてAppleに入社し、2012年にはiPhoneのプログラム管理責任者を務めました。2017年にVPGへ移り、2019年から同グループのハードウェアエンジニアリング全体を統括してきた実績があります。

Appleのスマートグラスは2027年後半が目標

AppleはVision Proの後継開発を見送り、スマートグラスに注力する方針へ舵を切っています。Bloombergのガーマン氏によると、同社初のスマートグラスは当初2027年初頭の出荷を目指していましたが、開発遅延により2027年後半の発売にずれ込む見通しです。

製品はディスプレイを備えないタイプから始まり、カメラで写真・動画を撮影し、スピーカーとマイクで音楽再生や通話、Siriによる通知読み上げに対応する構想です。MetaのRay-Ban Metaと同様、レンズ内のAR表示は初版には搭載されない見込みで、米国市場の200〜500ドル帯の製品と競合する価格帯を想定しています。楕円形のカメラ、複数のフレームスタイル、黒・オーシャンブルー・ライトブラウンなどのカラー展開が検討されていると報じられています。

リーダー不在のまま発売時期が迫る局面で、ミード氏の退職はAppleにとって大きな打撃です。ティム・クックCEOはターナス氏へのCEO交代(2026年9月1日予定)前の最優先事項としてスマートグラスを位置づけていると、ガーマン氏は伝えています。

OpenAIはソフトウェア企業からハードウェアへ

OpenAIはこれまでAIモデルとソフトウェアが中心でしたが、消費者向けハードウェアへの本格参入を進めています。2025年にはアイブ氏らが立ち上げたAIハードウェアスタートアップを買収し、ioという子会社を通じてデバイス開発を進めてきました。

The Informationの報道によると、最初に登場する製品はカメラ付きスマートスピーカーで、2027年初頭の発売と200〜300ドルの価格帯が計画されています。スマートランプやAIグラスも検討中ですが、グラスは2028年以降になる見込みで、スピーカー以外の製品はまだ初期段階にあり、中止される可能性もあるとされています。

ミード氏の採用は、Vision Proという高価格ARヘッドセットとスマートグラスという軽量ウェアラブルの両方を手がけた経験をOpenAIに持ち込む動きです。ソフトウェアだけでなくデバイス全体を設計する体制を固める段階に入ったことを示しています。

Metaが299ドルからAIグラス市場を押さえる

AppleとOpenAIが製品を準備するあいだ、Metaは市場で先行しています。2026年6月23日、MetaはEssilorLuxotticaと共同で「Meta Glasses」を発表し、299ドルから販売を開始しました。Ray-Ban Metaの379ドルより安い価格設定で、Metaブランド単独のAIグラスとしては初のラインナップです。

3つのフレームスタイルと26種類のカラー・レンズの組み合わせを用意し、処方箋レンズにも対応します。AI機能にはMeta Superintelligence Labsが開発したMuse Sparkモデルを初日から搭載し、写真撮影時のベストショット推薦や20言語のリアルタイム翻訳などを提供します。バッテリーは8時間持続し、充電ケース併用で最大40時間まで延長できます。

Metaは過去5年間で数百万台を販売し、AIグラス市場で先行優位を築いています。Appleが2027年後半を目指すスマートグラスは、この価格帯と機能セットで既に席を占めるMetaとの競争を前提に設計されています。

AIウェアラブルは「誰が作るか」の争いに

AIグラスの技術要素——カメラ、マイク、スピーカー、クラウド上のAIモデル——は個別には成熟しています。しかし、一日中快適に装着できるデザインと、日常的に使えるユースケースの組み合わせは、まだ誰も完全には解いていません。

各社がApple出身のハードウェア人材を争う背景には、AIの体験をソフトウェアだけでなくデバイス形状まで含めて設計したいという意図があります。ミード氏の移籍は単なる人事ニュースではなく、2027〜2028年に集中するAIウェアラブル製品の争奪戦が、いまから人材面でも動き出したことを示しています。