人間のデモやテレオペなしで、ヒューマノイドが複雑な全身動作を自力で見つけられる時代が始まりつつあります。

この記事では、テクニカル大学ミュンヘン(TUM)・ニューヨーク大学(NYU)・カーネギーメロン大学(CMU)の研究チームが発表したMotionDiscoについて、課題・仕組み・検証結果を整理します。

この記事でわかること

  • MotionDiscoが解くロボット制御の課題と、模倣学習との違い
  • LLMと物理最適化をループさせる動作発見の流れ
  • 8種類の評価タスクと実機デプロイの結果
  • 模倣学習拡張と自律探索のどちらが先に効くか

https://atarilab.github.io/motiondisco.io/

人間の動きを真似するだけでは足りない

ヒューマノイドが家庭や現場で働くには、歩行と物体操作を組み合わせた長期タスク(loco-manipulation)が欠かせません。箱を運びながらテーブルを登る、狭い通路の障害物を避けて進む、低い棚の下に手を伸ばす——こうした動作は、手足の接触タイミングと順序の組み合わせが爆発的に増えます。

現状の主流は、人間の動きをモーションキャプチャで取り、ヒューマノイドにリターゲット(再マッピング)する方法です。成功例は多い一方、想定外の環境ごとにデモを用意するのは現実的ではありません。人間の体型と関節構造の差もあり、ロボット本来の能力を引き出しきれない点が論文でも指摘されています。

MotionDiscoは、この模倣依存から一歩離れ、接触計画(どの部位をどこに当てるか)をゼロから探索するフレームワークです。テレオペや人間デモへの依存を排し、自動探索だけで長期のloco-manipulationを発見・実機転送した初の研究と論文は位置づけています。

LLMが「接触計画」を進化させ、物理エンジンが検証する

MotionDiscoの核は、大規模言語モデル(LLM)と運動計画モジュールの二層構造です。LLMはシーンのテキスト記述と目標を受け取り、Pythonプログラムとして接触計画を生成します。各ステージで「左手をテーブルに」「右足を段差に」といった離散的な接触列を提案するイメージです。

提案された計画は、まず順次キネマティック(運動学的)最適化で幾何学的に実行可能かを高速チェックします。接触順序が破綻していれば、どのモードで失敗したかをテキストでLLMに返します(例:「モード5で逆運動学が解けない」)。通過した計画だけが、接触力や衝突回避を含む完全な軌道最適化(trajectory optimization)に進みます。

LLMは親ノードのプログラムを書き換える「突然変異」演算子として働き、進化的木探索(evolutionary tree search)で接触計画を洗練させます。木の拡張戦略にはShinkaEvolveを採用し、複数のサブ集団(アイランド)で多様な解を維持します。論文ではLLM部分にAnthropicのClaude Opus 4.7を使用しています。

このループにより、LLMは物理法則を直接計算するのではなく、記号的な接触戦略を提案し、最適化器が現実性を判定する役割分担が成立します。

8タスクで検証、数分以内に最初の有効解を発見

評価は難易度の異なる8タスクで行われました。Bananaでは届かない位置の物体に届くため、シーン内の物体を積み上げてテーブルに登る必要があります。Box Stackingは3つの箱を最大高まで積む操作、Climb Table w/ Boxは箱を持ったままテーブルに登る動作、Move Through Clutterは2つの箱で塞がれた通路を通過します。Parkour Pick & Place 1・2は段階的に難しくなり、2では中間テーブルに登って降りたうえで床に箱を置く必要があります。Under-Table Pick & Placeはテーブル下の狭い空間への到達を試します。

比較実験では、LLMを1回だけ呼ぶ方式(SC)は複数タスクで解を出せませんでした。反復探索ありのMotionDisco(MD)は8タスクすべてで有効な接触計画を発見し、テキストフィードバックあり(MD)の方が有効計画の割合と軌道コストの両面で優れています。最初の有効解が見つかるまでの時間は、タスクにより1.34分から7.49分で、組み合わせ爆発の大きい空間に対して実用的な速度と論文は報告しています。

1回の探索実行で、同じ目標に対する複数の異なる接触計画も得られます。進化的探索が多様性を保つため、再プロンプトなしで別解の動作データを生成できる点が、模倣学習のデータ源としても注目されます。

発見した軌道をRLで追従し、実機ヒューマノイドに転送

シミュレーションで得た軌道は、そのまま実機に流すのではなく、強化学習(RL)で追従ポリシーを学習します。DeepMimic系の報酬とドメインランダム化を用い、発見軌道を参照としてポリシーを訓練したうえで、実ヒューマノイドにゼロショット(追加調整なし)でデプロイしています。

実機実験では、テーブル下への手伸ばし、障害物のある通路通過、箱を持ってテーブルに登る動作など、複数タスクで連続成功が確認されています。プロンプト設計の付録から、使用ロボットはUnitree G1であることが読み取れます(基準高さ0.8m、1歩約0.4mなどのパラメータ記載)。

模倣学習の拡張か、自律探索か

ロボット開発の現場では、模倣学習(IL)を大規模データで拡張する路線と、環境から自律的に動作を探す路線が並走しています。MotionDiscoは後者の具体例であり、「人間が全部設計する」前提を問い直す研究です。

ただし現時点の制約も論文で明示されています。接触モデルは矩形パッチへの付着接触に限定され、物体形状も箱型に限られます。シーン情報は事前に与えられ、カメラからの認識は組み込まれていません。今後は滑り接触や自由形状物体、知覚モジュールとの統合が課題として挙げられています。

それでも、LLMの推論と物理最適化のフィードバックループで、長期loco-manipulationを自動発見し実機再現まで到達した点は、ヒューマノイド制御の選択肢を広げる成果です。模倣データがない未知の場面でも、ロボットが自ら接触戦略を編み出す方向性を、研究コミュニティは注視しています。