AIエージェントを導入しても、成果の責任者がいなければ現場は混乱するだけです。2026年2月、Harvard Business Review(HBR)が「Agent Manager」という新しい職種を正式に論じ、企業のAI運用に欠けていた役割を名前づけました。

この記事では、Agent Managerが担う業務、なぜ今必要なのか、Salesforceの実例から読み取れる運用の実態を整理します。

この記事でわかること

  • Agent Managerの定義と、プロダクトマネージャーとの位置づけの違い
  • HBR共著者が挙げる5つの責務
  • Salesforceのサポートエージェントマネージャーが行う日々の監視業務
  • エンジニアではなくビジネス側の人材が担う理由

https://hbr.org/2026/02/to-thrive-in-the-ai-era-companies-need-agent-managers

自律型AIエージェントに「管理者」が必要な理由

AIエージェントとは、目標を与えると自律的に計画を立て、ツールを使い、タスクを完了するAIシステムです。チャットボットが質問に答えるだけの存在と違い、複数ステップの業務を代行します。

HBRの論文要旨では、自律型AIエージェントが実験段階から実行段階へ移りつつある今、企業には新しいリーダー層が必要だと述べられています(参考)。エージェントの学習・協調・パフォーマンス・人間との安全な協働を統括するのがAgent Managerです。

共著者のSuraj Srinivasan氏(ハーバード・ビジネス・スクール教授)はLinkedInで、エージェントが実務を担い始めた組織には「パフォーマンス、説明責任、ガバナンスの明確なオーナー」が不可欠だと説明しています(参考)。もう一人の共著者であるSalesforce COOのVivienne Wei氏も、「実務を担うAIエージェントにオーナーがいない状態は、規模が大きくなるほど混乱を招く」とコメントしています。

導入だけして終わりにすると、エージェントは「かっこいい技術」のまま残り、ROIが測れません。Agent Managerは、このギャップを埋める役割として位置づけられます。

Agent Managerの5つの責務

HBRの著者らは、Agent ManagerがプロンプトエンジニアでもIT部門でもなく、ビジネスに近い立場の人材であるべきだと主張します。Srinivasan氏が挙げる責務は次の5点です。

「良い状態」の定義 — 目標、ガードレール(安全な行動範囲の制約)、エスカレーション経路を設計する。

パフォーマンスの監視 — エージェントの成功率や失敗パターンを継続的に追跡する。

ワークフローの改善 — エージェントの品質が低下したり、想定外の挙動が出たときに手順を修正する。

インパクトの測定 — 導入効果を数値で示し、経営層への説明責任を果たす。

ガバナンスの日常化 — コンプライアンスやリスク管理を運用の一部として組み込む。

ソフトウェア革命の時代にプロダクトマネージャーが「エンジニアリングとビジネスの橋渡し役」として定着したように、Agent Managerは「AIの能力とビジネス成果の橋渡し役」として機能します。技術を作るのではなく、技術が狙い通りに動くよう管理する立場です。

Salesforceの実例:ダッシュボードでエージェントを管理する

HBRはSalesforceの事例を軸に記事を構成しています。同社は顧客関係管理(CRM)プラットフォームを提供する企業で、AIエージェント基盤として「Agentforce」を展開しています。

同社のサポートエージェントマネージャーZach Stauber氏は、サポート・営業・マーケティング部門にまたがる生成AIエージェント群を統括しています。彼の1日は、顧客からの問い合わせが届く前から始まります。

Stauber氏は自身の業務を「Data, Data, Data」と表現しています。1日の始まりも終わりも、ダッシュボード、スコアカード、エージェントの可観測性(observability)モニタリングで過ごすという内容です。エージェントが今どう動いているかだけでなく、どう学習し適応しているかにも目を配ります。従来のマネージャーがフロアを回って部下の様子を確認する行為に相当する業務を、デジタルチームに対して行っているイメージです。

この事例が示すのは、Agent Managerの仕事がコードを書くことではなく、エージェントの出力品質と学習過程を継続的に評価することだという点です。

従来のマネジメント職との違い

Agent Managerは「人間の部下を管理するマネージャー」と似た発想ですが、管理対象がAIエージェントである点が異なります。人間のチームリードが電話システムの構築方法を知らなくても品質管理できるように、Agent ManagerもAIモデルの内部構造を設計する必要はありません。

必要なのは、自社の業務プロセスを理解し、エージェントの出力が基準を満たしているかを判断できることです。顧客対応なら応答の正確さとトーン、営業支援なら提案の妥当性、といったドメイン知識が武器になります。

Srinivasan氏は「エージェントと人間のワークフローをうまく管理できる企業が、エージェント導入の勝者になる」と述べています。技術選定よりも、人とAIの役割分担と引き継ぎ設計のほうが成果を左右します。

エージェント普及と職種の広がり

調査会社Gartnerは、2026年までにエンタープライズアプリの40%がタスク特化型AIエージェントを搭載する見通しを示しています。2025年時点の5%未満から急増する予測です(参考)。

エージェントが業務アプリに標準装備されるほど、導入・監視・改善の責任者需要も増えます。Agent Managerはその需要に応える職種として、HBRが名前を与えた段階にあります。

すでにSalesforceでは「support agent manager」という肩書きが存在し、同社のAgentforce上でエージェント群を運用しています。他社でも「AI Agent Operations Lead」「Agentic Workflow Manager」など、名称は異なってもエージェント運用を専任するポジションが増えつつあります。

導入担当者が押さえるべきポイント

Agent Managerの概念は、大企業の専任ポジションに限りません。部門単位でエージェントを1つ導入する場合でも、「誰が品質を見るのか」「異常時に誰が判断するのか」を決めておく必要があります。

HBRの論点は、こうした業務がすでに現場で行われているなら、役割を明示的な職種として定義したほうが組織は速く成熟する、というものです。エージェントを増やす前に、監視指標とエスカレーションルールを決め、担当者を置く。これがAgent Managerという枠組みが示す実務の出発点です。

AIエージェントの導入競争は、モデルの性能だけでは決まりません。エージェントの成果を継続的に管理できる人材を育て、組織に組み込めるかが分かれ目になります。